研究課題/領域番号 |
22J13150
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 樹 東京大学, 数理科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
|
キーワード | 川又対数的端末特異点 / big Cohen-Macaulay 代数 / 乗数イデアル / F-特異点論 / 正標数 |
研究実績の概要 |
代数幾何学は代数方程式の零点として定義される代数多様体の性質を研究する分野である。その中でも双有理幾何学は多様体を双有理同値という同値関係に基づいて分類することを目標としている。双有理幾何学において重要な特異点として有理特異点や川又対数的端末特異点などがある。標数0の体上の代数幾何では特異点解消を用いてこれらの特異点が定義される。しかし、正標数の体上の代数幾何においてはフロベニウス写像を用いてF-有理特異点やF-正則特異点が定義される。これらの等標数0と正標数の特異点には正標数還元という手法によって著しい関連があることが知られている。近年、MaとSchwedeは混標数の特異点についてもbig Cohen-Macaulay (BCM)代数を用いて特異点のクラスを定義すれば等標数の特異点論と類似の結果が得られることを示している。ただし、ネーター局所環Rに対しBがBCM R-代数であるとはRの任意のパラメータ系がB-正則列になることである。他方でH. Schoutensは超準解析的な手法を可換環論に応用して正標数と等標数0の環の関係を研究したり、等標数0の環上のBCM代数を構成したりしている。これらを踏まえ、超準解析的な手法により標数0のBCM代数と双有理幾何に現れる特異点の関係を調べることが本研究の目標である。 MaとSchwedeの理論を用いるとBCM代数を用いてBCM判定イデアルというイデアルを構成することが出来る。これは正標数における判定イデアルや等標数0の乗数イデアルに近いものであると考えられる。そこで、等標数0のBCM代数に関してBCM判定イデアルを考えれば乗数イデアルと一致し、また等標数0においてはBCM有理特異点と有理特異点が一致すると考えられる。これらの問題について超準的な手法を用いて正標数のBCM代数と比較して考察を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初はMaとSchwedeによって導入されたBCM有理特異点と有理特異点の関係を調べるつもりであった。一般の等標数0のBCM代数を超準解析的な手法で正標数のBCM代数から構成されるBCM代数と比較することで解決することを考えていたがこの方法で解決することができなかった。しかし、この問題を考える過程でSchoutensが超準解析的な手法で構成したBCM R-代数B(R)に関してBCM-正則特異点が川又対数的端末特異点と一致することを示すことが出来た。またこの場合にはBCM判定イデアルと乗数イデアルが一致することも示すことが出来た。標数0のBCM代数について今までほとんど具体的な性質が分かっていなかったことを考えると双有理幾何に現れる特異点との関連を示すことが出来たことは有意義な結果であると考えている。これにより、代数幾何学で重要な特異点のクラスに対する標数に依存しない特徴づけに一歩近づいた。上記の結果を用いて乗数イデアルをBCM判定イデアルの形で記述することで純な環拡大のもとでの乗数イデアルの振る舞いについての定理を示すことが出来た。これにより超準解析的な手法を用いて乗数イデアルを調べた私の以前の研究における結果を Q-Gorenstein 性などの仮定を外して一般化することが出来た。この研究の方向が有意義なものであると考えたため、Q-Gorensteinより広いクラスとして多様体の反標準環が有限生成な場合への拡張を研究した。またMaとSchwedeが導入したBCM随伴イデアルのアイデアを用いれば、乗数イデアルだけでなく随伴イデアルについてもBCM随伴イデアルとして記述できると考えた。以上のように、当初の予想の一部を解決しながら標数0のBCM代数と特異点の関連について重要な結果をいくつか得ることが出来たため順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、BCM随伴イデアルと随伴イデアルの関係を用いて純対数的端末特異点について研究を進めているところである。対数的端末特異点と同様にして、純な環拡大の元での純対数的端末特異点の振る舞いについての結果が得られると考えている。この結果について論文にまとめる予定である。 その後は対数的標準特異点とF-純特異点の関係についても考察を進めたいと考えている。対数的標準特異点は双有理幾何学で重要な特異点のクラスであるが一部のコホモロジーの消滅定理が成り立たないなど扱いが難しい特異点のクラスでもある。またF-純型特異点はフロベニウス写像が純であることによって定義される正標数の特異点である。稠密F-純型特異点は正標数還元を用いてF-純特異点から定義される等標数0の特異点である。稠密F-純型特異点は対数的標準特異点と同値であると予想されているが未解決である。この問題を完全に解決することは難しいと考えられる。したがって、まずは稠密F-純型特異点を超準解析的に調べることを目標としたい。 GodfreyとMurayamaによりDu Bois特異点が純な環拡大の下で保たれることが示されている。したがって、超準的な手法を用いてDu Bois特異点と近い概念の稠密F-単射型特異点についても同様の主張が成り立つことが証明できると考えている。Du Bois特異点と対数的標準特異点の関連を考えると、対数的標準特異点について考察するうえでDu Bois特異点について研究するのは有意義であると考えている。 F-単射特異点はイデアルのフロベニウス閉包という閉包操作との関連が調べられている。このフロベニウス閉包を超準解析的に取り扱って等標数0の代数におけるイデアルの閉包操作を考えることにも意味があると考えている。この閉包操作とDu Bois特異点および稠密F-単射型特異点との関連も調べたいと考えている。
|