本年度の研究では,瞳収縮分光器を地上のテストベッドに用意し,複数波長帯のデータを利用した干渉縞として観測するだけでなく,様々な光路差で固定して取得される干渉縞や一露光中の光路差をリアルタイムに変動させて取得される干渉縞を用いて,その時点での光路差を一枚の干渉縞画像から推定する手法を提案し,その妥当性が実験を通して示された.特に一露光中の外乱のない,光路差が固定された理想的な状態では,光路差の推定が数マイクロメートルの精度で可能であることが示されている.一露光中の外乱のある環境下においても,高精度なレーザー変位計を用いて光路差変動を高速かつ高精度に計測しながら同時に干渉縞の取得も行った結果,実際の宇宙空間で想定される外乱環境下でも十分なS/Nの干渉縞が取得できる可能性が大いにあることが分かった. また,従来の干渉計と異なり,焦点ではなく瞳での干渉を行う瞳収縮分光干渉計では,鏡の相対的な姿勢にずれがあったとしても干渉縞を取得することができ,さらに分光によるコヒーレンス長の増加も確かめられている.これらは双方ともに理論的に計算される挙動と近いものであることが示された. 本テストベッドは,波長板や偏光板などもすべて組み込んだ,実際の衛星へ搭載される想定の光学設計にほぼ即したコンフィグレーションであり,cos成分とsin成分の両方を同時に含んだ複素鮮鋭度の取得が行えるようになっている.そうした実験環境で,光路差に外乱を与えながらも十分なS/Nの干渉縞の取得ができており,さらに同時にその干渉縞の画像から光路差を高精度に推定できることが示されたことは,今後の宇宙赤外線干渉計の実現に向けて大きな成果であると考えられる.
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