研究実績の概要 |
異常高原子価状態のFe4+を含むペロブスカイト型鉄酸化物SrFeO3は、強いdp混成を背景として、幾何学的フラストレーションのないシンプルな立方晶構造でありながら多彩なmulti-qらせん磁性相を示すことから注目を集めてきた。しかしFe4+を含む系は準安定であり、合成の難しさから関連物質における新奇らせん磁性相の開拓が遅れてきた。そこで本研究では、Ca, Baがc軸方向にオーダーしたAサイト秩序ペロブスカイト型鉄酸化物に注目し、高圧合成法による新物質開拓をおこなった。 合成を試みた物質が新物質であったことから、第一原理計算を用いた結晶構造の熱力学的安定性の評価に基づき高圧合成を試みる候補物質のスクリーニングと合成経路の検討を実施し、目的物質の合成をより少ない回数で見通しよくおこなうことを目指した。常圧下・高圧下におけるconvex hullの作成の結果、酸素欠損型の2種類の新規Aサイト秩序相CaBaFe2O5, Ca(Ba0.9Ca0.1)2Fe3O8について、高圧下で安定化する傾向が予測され、それらを高圧合成法により実際に合成することに成功した。さらに、得られた酸素欠損相に対してオゾンを用いたトポタクティックな低温酸化を試み、部分的な酸素充填をおこなうことに成功した。また、酸素充填後のCa(Ba0.9Ca0.1)2Fe3O9-δにおいて、multi-qらせん磁気秩序の可能性にも期待できる新奇磁気相の発現を見出した。これらの結果は高圧合成法による新物質開拓における計算科学的アプローチの有効性を示すもので、今後の準安定強相関酸化物の開拓のさらなる加速につながることが期待される。
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