研究課題/領域番号 |
22J14177
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安田 傑 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 浸透圧 / 普遍性 / ゲル / スライム / 星型高分子 |
研究実績の概要 |
直鎖状の高分子溶液において、浸透圧は高分子鎖のミクロな詳細に依存せず、普遍的な状態方程式で記述されることが1970-80年代の研究から明らかにされている。本研究では、星型高分子溶液、ゲル、スライムの浸透圧を支配する普遍的物理法則に関して、以下の三つを新たに明らかにした。 まず、星型高分子溶液の浸透圧に関しては、三分岐から八分岐の星型高分子溶液の浸透圧が、中心部から高分子鎖が分岐した構造を有するにもかかわらず、直鎖高分子溶液の浸透圧と同様の普遍的状態方程式で記述できることを明らかにした。この結果から、高分子鎖の分岐が浸透圧の普遍性に与える影響が明らかになった。 次に、ゲルの浸透圧に関しては、ゲルの浸透圧が準静的膨潤過程において準希薄スケーリング則に普遍的に支配され、従来の平均場のFlory-Huggins理論では平均場の近似が悪くなるために低濃度で実験結果から乖離することを明らかにした。また、準希薄スケーリング則を用いることで、ゲルの膨潤を正確に予測できることを実証した。さらに、ゲルの浸透圧の準希薄スケーリング則から自己排除ランダムウォークの臨界指数を決定可能であること、およびゲルの浸透圧の準希薄スケーリング則から従来のc*定理を修正するスケーリング則を導けることを示した。 最後に、スライムの浸透圧に関しては、液体のスライムと固体のゲルという違いがあるにもかかわらず、スライムの浸透圧がゲルの浸透圧と同様に準希薄スケーリング則に普遍的に支配されることを明らかにした。この結果から、高分子網目の結合ダイナミクスが浸透圧に普遍性に与える影響が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目的であった、星型高分子溶液・ゲル・スライムの浸透圧に関して、いずれも直鎖高分子溶液の普遍的状態方程式で記述できることが明らかになり、三つの異なる物質の浸透圧を統一的に理解する普遍的物理法則が明らかになった。さらに、ゲルの浸透圧の普遍法則から、ゲルの膨潤を正確に予測できることを実証し、生体内での医療応用をはじめとするゲルの工学的な応用において有用であることを示した。また、ゲルの浸透圧の普遍法則から、自己排除ランダムウォークの臨界指数を決定可能であること、従来の平均場のFlory-Huggins理論およびc*定理をゲルに適用することが誤りであることまで実証することができた。 星型高分子溶液およびゲルの浸透圧の普遍性に関する発見は、それぞれ論文を学術雑誌に投稿し査読中である。スライムの浸透圧の普遍性に関する発見は、論文を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
高分子溶液・ゲル・スライムの浸透圧の普遍性とその限界をさらに探究するために、ゲルおよびスライムの浸透圧の分岐数依存性、溶媒をイオン液体にしたゲルの浸透圧の支配法則、不均一構造を有するPmOEGMAゲルの浸透圧の支配法則、およびゼリーや寒天などのゲルの浸透圧の支配法則を調査する。上記の研究から、高分子鎖の分岐数・化学種・化学構造・剛直性などが浸透圧の普遍性に与える影響について、包括的に調査することができる。得られた結果を、これまでの直鎖高分子溶液の普遍的状態方程式に加えて、剛体球および剛直な棒の状態方程式に基づいて、浸透圧の普遍性の限界について明らかにする。
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