研究課題/領域番号 |
22J14319
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金子 真悟 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | ドロップレットマイクロ流体力学 / 画像認識 / 藍藻 / MEMS |
研究実績の概要 |
令和4年度は 高速浸透圧刺激を藍藻に与えた際の応答を単一細胞レベルで解析する技術開拓に取り組み,それぞれ国内学会,国外学会で一件ずつ発表した.国内学会では,“日本機械学会 ロボティクス・メカトロニクス講演会,「急激な浸透圧変化に対する藍藻の浸透圧 調製 機能の評価」のタイトルで発表し,高速浸透圧刺激を与えた際の単一細胞解析を実施し,細胞の応答に不均一性が観察されることを確認した.国際学会は,International Symposium on Micro/nano mechatoronics and Human Science (MHS)において,“Evaluation of viability of single synechocystis sp. pcc 6803 in reaction to high-speed osmotic pressure change,” というタイトルで発表を行った.この発表では,高速浸透圧刺激を与えた際の応答の不均一性が細胞膜の透過率の違いに起因することを解明しその内容を発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の解決すべき点は,( I )高速溶液刺激を与える流体デバイスの実現,( II )画像計測システムの開発,( III )環境応答特性及び生理学的機能の関係調査及び評価手法確立となっており,令和4年度に取り組んだ進捗状況を以下に記載する. ( I )については,現状で2.5ミリ秒オーダの溶液置換が達成されており,藍藻に高速溶液刺激を与えるには十分な速度となっている.しかし,製造プロセスにおいて,1つのガラス基盤に対して1つの流体チップが作成される低い歩留まりとなっていた.そこで,今年度は流路構造を工夫することで,1つのガラス基板から7つの流体チップが作製されるよう7倍の歩留まりを達成した.結果,これまで洗浄することで使い回していた流体デバイスをディスポーザブルにすることが可能となった. ( II ) については,単一細胞の投影面積計測の自動化に注力した.これまで,単一画角に複数存在する単一細胞の位置を手動で領域抽出し,細胞の投影面積を計測してきた.しかし,サンプル数や実験条件が増えるたびに多大な労力を必要とする.この問題を克服するべく細胞の領域抽出を,深層畳み込みニューラルネットワークを利用した深層学習で自動検出した.現状,検出精度は80%ほどであり向上の余地はまだ残されている. ( III ) については,(Ⅱ)で取得された単一藍藻の相対体積変化と細胞膜の透過性を特徴づけるPI/SYTO9蛍光プローブを照らし合わせた評価手法を確立した.浸透圧低下刺激をステップ入力として与えた際の応答に,一時遅れ系を示す細胞と,示さない細胞が混在することが確認された.そこで,細胞膜の透過性を特徴づけるPI/SYTO9蛍光プローブと照らし合わせることで,細胞膜が破れない細胞と破れる細胞と応答が一致することが明らかになり解明された.以上より研究は概ね順調に進捗している.
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度に取り組む内容として,(Ⅰ)細胞搬送機能の流体システムへの実装,(Ⅱ)単一細胞の検出精度の向上,(Ⅲ)細胞応答の不均一性の解明に取り組む.(Ⅰ)細胞搬送機能の流体システムへの実装については,光ピンセットによる光学操作の統合及び,マイクロ流体チップ内に細胞を機械的に補足可能な構造体の作製に取り組む.現状の,細胞の捕捉方法は予め接着タンパク質を流路内に成膜し任意の箇所に補足している.しかし,この手法は細胞の捕捉箇所を選択できずに細胞同士が重なることなど画像解析に困難さを有している.光学操作と細胞の捕捉箇所を微小構造体で配置を設けることで選択的搬送・捕捉を実現し画像解析精度の向上を目指す. (Ⅱ)単一細胞の検出精度については,現状の検出精度80%からの向上を目指す.単一細胞の画像認識手法として,YOLOを用いた深層畳み込みニューラルネットワークにより認識している.この手法は,フレームレートの早いリアルタイム性に優れるが認識精度は,十分とはいえない.リアルタイム解析が必要でない当該研究においては,スライディングウィンドウと転移学習による特徴量抽出を利用し,検出精度の向上に取り組む. (Ⅲ)細胞応答の不均一性の解明については,細胞の形状情報のみでは不十分であるため様々な蛍光プローブ等を利用した解析手法を検討している.具体的には,藍藻の異常光合成をした個体において,活性酸素が濃くなり,当該個体においては浸透圧に弱くなる仮説を持っている.そこで,活性酸素濃度に反応する蛍光プローブの使用し,浸透圧刺激との相関を観察していく.また,細胞の分裂周期の回数に応じて浸透圧体制に影響がないかについても蛍光プローブを用いて解析を行っていく予定である.
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