本研究では、太陽電池を用いた水の電気分解による水素生成コストの削減に向けて、波状量子構造を用いた高電流密度太陽電池を開発することを目的とした。研究を進めていく中で波状超格子太陽電池を用いることで高電流密度が実現できることが明らかになったが、量子構造を挿入したことによる電圧損失の問題があることも明らかになった。そこで、詳細釣り合い理論に基づいた包括的な電圧損失の解析手法を提案した。量子構造太陽電池における電圧損失の解析はこれまで適した方法が提案されておらず、十分な研究がなされてこなかった。本研究によって電圧損失の詳細な解析が可能となり、量子構造太陽電池においては非発光再結合による電圧損失だけではなく、発光再結合による電圧損失も重要になることを明らかにした。また、その成果を用いて新たな量子構造を提案した。その量子構造を用いた太陽電池では、従来よりも高い電流密度と高い電圧の両方を実現することに成功した。具体的にはGaAsP障壁層のP組成を80%という超高P組成にし、厚さを2 nm程度と極薄にし、InGaAs量子井戸層を12 nm程度と厚くした。その結果、非発光再結合と発光再結合による電圧損失を抑制しつつ、高い電流密度を達成することに成功した。本研究の成果は水の電気分解に適した量子構造太陽電池を作製する上で重要であると言える。なお、研究成果については国際学会で発表するとともに、学術雑誌に投稿し、現在査読中である。
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