研究課題/領域番号 |
22J14935
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杉本 昇大 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 孤立量子系 / 熱平衡化 / 固有状態熱化仮説 / ランダム行列 / 統計力学基礎論 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、長距離相互作用系において、孤立量子多体系のユニタリ時間発展下での熱平衡化機構として有力視されている固有状態熱化仮説(ETH)が典型的に成り立つかどうかを数値的に明らかにした。 具体的には、相互作用が距離rについて ~1/r^αのように冪的に減衰する2体長距離相互作用ハミルトニアンからなる2体長距離ランダム行列集団を構成し、1次元スピン鎖において少なくともα>=0.6のときに、2サイト局所物理量についてETHが典型的に成り立つことを明らかにした。この結果は、熱力学的に重要な性質である相加性を満たさないα<=1.0のハミルトニアンにおいても、長時間後に系が熱平衡化し、その熱平衡状態がミクロカノニカル集団でよく記述できることを意味する。一方で、物理量のエネルギー固有状態に関する期待値と、ミクロカノニカル平均からのずれに関する仮説であるSrednicki's ansatz (ETH ansatz)は、1次元スピン鎖においてα<=1.0のとき典型的に破れることを発見した。このことは、ハミルトニアンの相加性は、熱平衡化の有無には影響しないものの、熱平衡化ダイナミクスに影響を及ぼしうることを示唆している。これらの結果をまとめた論文が、Physical Review Lettersから出版された。
ETHの成立には測定量への制限が必須であるが、どのような制限が本質的であるかや、測定量への制約がETHに及ぼす定性的及び定量的影響はほとんど明らかでなかった。そこでまず、私たちは測定量の集合をさまざまに変化させた場合にも適用可能なETHの指標を導入し、その基本的性質を明らかにした。このETH指標を、固有状態が一様に分布する理想化された場合について解析的に計算することで、この場合、系全体に作用する比較的多体の演算子まで全て同時にETHを満たすという結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた「長距離相互作用系における固有状態熱化仮説の典型性」を明らかにすることができた。また、物理量のエネルギー固有状態に関する期待値と、ミクロカノニカル平均からのずれに関する仮説であるSrednicki's ansatzの検証を通して、熱力学的に重要な性質であるハミルトニアンの相加性が、孤立量子系の熱平衡化へ及ぼす影響に関する示唆を得ることができた。 さらに、もう一つの研究目標である「固有状態熱化仮説の成立に本質的となる着目量への制限の特定」について、それに必要な、測定量の集合をさまざまに変化させた場合にも適用可能なETHの指標の導入と、その基本的性質の解明を達成できた。さらに、エネルギー固有状態が一様に分布する理想化された状況におけるETH指標の振る舞いを解析的に明らかにするなど、研究目標達成に向けて着実な成果を出すことができたと言える。 これらの理由で、本研究は当初の計画通り順調に進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
「固有状態熱化仮説の成立に本質的となる着目量への制限の特定」について、引き続き研究を進めていく予定である。エネルギー固有状態が一様に分布するランダムハミルトニアンについて得られた、系全体に作用する比較的多体の演算子まで全て同時にETHを満たす、という結果は、系を着目する部分系とそれ以外に分けるという従来の描像では捉えられない。そこで、このような場合にも適用可能なエンタングルメント指標を特定し、その熱力学的性質を解析的に明らかにする予定である。その後、相互作用の局所性などを満たす現実的なハミルトニアンについての数値計算を行い、ランダムハミルトニアンに対する解析計算から得られた結果の妥当性を調べる予定である。
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