研究課題/領域番号 |
22J15020
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉野 良祐 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 近代建築史 / 雑誌 / メディア / ジャーナリズム |
研究実績の概要 |
本研究は、大正期~戦後間もない時期(貫戦期)の日本建築界における、ジャーナリズムの歴史と歴史観の変遷を統合的に理解しようとする試みである。大正期以降多く現れた建築系雑誌(『建築新潮』『新建築』など)に着目し、その網羅的な調査を行うことで、メディアごとの記事の性質、編著者の動向、社会的な影響力や意義などを通史的に記述することを目指す。加えて、ジャーナリズムの動向を左右するような歴史観や社会思想、とりわけ唯物史観や社会主義のような時代を画する潮流に着目し、メディアの変遷の背後にある建築と社会の関係の変遷を明らかにする。 本年度の研究では、こうした建築系雑誌の悉皆調査が主たる実績となる。対象とする時代の建築系雑誌は、国立国会図書館の所蔵資料に含まれないものも存在するため、東京大学の付属図書館や建築学会図書館など、関連する複数の図書館における建築系雑誌の所蔵状況を調査し、相互に補完することによって網羅的な全容把握に努めた。建築系雑誌を一次資料として扱うための資料の把握・整備を行うことで、メディア間の系譜や相互作用、出版社研究や読者層研究といった人文学の手法を用いた建築史研究の可能性が拓ける。 また、仲田定之助(神奈川県立近代美術館)や西山卯三(西山文庫)といった同時代の建築家や美術関係者の遺品を扱う資料室等を調査し、ジャーナリズムの動向の背景となるようなモノグラフ研究を進めた。こうしたモノグラフを、建築ジャーナリズム研究におけるケーススタディとして位置付けることで、具体的・個別的な事例研究を再評価し、より俯瞰的・統合的な近代建築史の叙述に組み込むことが可能となるだろう。 査読論文、書評、共著書を刊行したほか、研究成果に基づくアウトリーチ活動(一般向けの講演会、高等学校での出張授業)にも取り組み、一定の成果が出ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
デジタルアーカイヴの利用や東京近郊の資料室の調査などにより、当初の想定に近い水準での研究は実施できているが、新型コロナウイルス感染症の影響は依然として残り、資料室等の入館や調査旅行での現地の受け入れ態勢などに制約が生じることがあった。また、重要な研究対象であった西山文庫が当該年度の途中で資料整備等のために閉館することとなり、以後の調査が難しくなった。こうした状況を踏まえ、研究の進行はやや遅れ気味で、研究内容にも微修正を加える必要が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症に伴う研究環境の制約は、令和5年度は大幅に改善されることが見込まれるが、進捗状況の欄に記載した通り、西山文庫の閉館など資料調査の困難が生じていることへの対応が必要である。もともとが網羅的で幅広い内容を扱う研究課題であるため、ケーススタディとして扱う対象を合理的に変更することによって、当初の研究目的や意義を損なうことなく、研究を続行することが可能であると考えている。 また、学会も徐々に対面での開催に戻ってきており、研究者間の交流が促進することが期待される。本課題は、日本近代建築史を専門とする研究者と様々な形で関わりうるテーマであるため、学会などの場で研究者間の交流を持つ意義は大きいだろう。学会発表や査読論文の発表を通じて、研究成果を公表することにも力点を置きたい。
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