研究課題/領域番号 |
22J15021
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金 希相 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 移民 / エスニック・マイノリティ / 住宅 / 居住格差 / 社会学 / 住宅同化論 / 住宅層別化論 |
研究実績の概要 |
本年度は、住宅の質や所有形態に着目し、質の高い持家を取得する確率とそれを説明する要因がエスニック集団間でいかに異なるかについて検討した。 まず、公的統計(国勢調査、住宅・土地統計調査)のミクロデータを使用するために、独立行政法人統計センターに調査票情報の利用(オンサイト利用)申請手続きを行い、10月に許可を得た。 その間、本年度の研究課題の準備作業として、移民の住宅選択と社会統合に関する先行研究を整理し、特別研究員に採用される以前から取り組んでいた研究成果の一部(移民の持家取得とエスニック・コミュニティの関連について)と一緒に学会報告を行った。その結果を踏まえて、11月から本格的な分析を開始した。 被説明変数として利用する「住宅の質」は、住宅の所有形態や建て方、延べ面積、居住地(人口集中地区の有無)を用いて「ハイクオリティ持家」「ロウクオリティ持家」「ハイクオリティ賃貸」「ロウクオリティ賃貸」の4カテゴリーに分類した。現時点で得られた結果を簡単にまとめると、(1)日本での生活が短い人(5年前の常住地が海外)ではL-Q賃貸に住んでいる割合が高い。(2)韓国・朝鮮籍とアメリカ籍の人は、日本国籍の人に比べ、H-Q賃貸になりやすい(ref. L-Q賃貸)。(3)どの国籍グループにおいても、配偶者の国籍(日本国籍か外国籍か)に関係なく、無配偶者グループに比べ、有配偶者の人ほど持家になりやすい。(4)家族類型(婚姻状態と配偶者の国籍の組み合わせ)の平均限界効果は性別と調査年度によって異なる、ことが確認された。 以上の結果は、国勢調査の匿名データを用いて2022年9月に『日本都市社会学会年報』に発表した論文を大幅に修正・発展させたものであり、移民の住宅選択と住宅市場への編入過程は、持家か賃貸かという二項対立図式で捉えるよりは、住宅の質や国籍の違いも考慮して理解する必要があることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は交付申請書に記載した研究実施計画が概ね完了した。まず、本研究課題を遂行するために必要な文献調査を行い、移民の住宅選択と居住格差に関する仮説を設定した。それを踏まえて、特別研究員に採用される以前から取り組んでいた研究成果の一部を修正・発展させて日本社会学会大会・韓国移民学会年次学術大会にて研究発表を行った。そして、公的統計の調査票情報(個票データ)の利用申請も無事に承認され、10月から分析を開始することができた。当初は、3月の数理社会学会大会でその成果を報告する予定であったが、移民研究会が新しく立ち上がり、その第1回で報告する機会をいただけたので、4月に開催された移民研究会で研究成果を報告した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、住宅の質に着目して移民の住宅選択について検討を行ってきた。今後取り組むべき課題として、次の3点が挙げられる。(1)移民は母国または第3国で住宅を購入する可能性もあるため、移民の住宅選択に関するモデルにトランスナショナルな視点を反映する。(2)住宅取得という行為には日本社会への定住意向といった主観的意味が含まれている。そのため、単に社会経済的資源の配分や階層再生産の観点からのみならず、移民にとっての住宅の意味とその役割を、雇用や教育との比較から積極的に提示していく。(3)女性(外国籍女性を含む)は結婚を機に、無職(専業主婦)または非正規雇用に転じていく傾向がある。したがって、既婚女性の職業的地位と住宅の関係をより詳細に明らかにする必要がある。2023年度は以上の3点について検討するとともに、日本への定住意向が低い層(民間賃貸住宅居住者)にも焦点を当てて研究を進めていく予定である。
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