本研究では、健常な発達期マウス脳内における局所的な赤血球漏出に関し、①脳内免疫細胞であるマイクログリアが赤血球を貪食し除去することが正常な脳発達に必要であるか、②発達期に赤血球を貪食したマイクログリアはその後の赤血球応答性が異なるか、の2点の検証を目的とした。 ①については、細胞死マーカーによる評価を行い、マイクログリア特異的なHO-1の欠損により、出血周囲における細胞死が増加することを見出した。 ②については、赤血球貪食マイクログリアの標識ツールであるHO-1-DsRedマウスを用いて、赤血球貪食マイクログリアの性質の網羅的探索を行った。その結果、恒常性マイクログリアで高発現するホメオスタティック遺伝子(P2ry12を含む)が低発現していることが明らかとなった。次に、遺伝子発現変化の分子メカニズムについて示唆を得るため、P2RY12の十分な発現が確認できるスライス培養マイクログリアにおいて薬理学的にHO-1発現活性を誘導したが、P2RY12の発現低下は認められなかった。一方、全血から単離した赤血球を処置したところ、P2RY12発現は有意に低下したが血漿成分ではP2RY12発現に変化がなかった。以上の結果から、赤血球がHO-1非依存的にマイクログリアのP2RY12発現を低下させること、これに血漿成分に含まれる液性因子は寄与しないことが明らかとなった。最後に、生体脳における非侵襲的な微小脳出血の検出をMRIにより試みた。T2*強調撮影の結果、生後1日齢の野生型仔マウス脳内において出血様のシグナルを認め、その後の組織学的検証により対応部位に実際に出血が存在することを確かめた。 以上の結果から、発達の過程において、野生型の健常なマウス脳内において微小出血が確かに生じており、これがマイクログリアのサブポピュレーションの性質に影響することが明らかとなった。
|