多結晶材料の粒界に偏析した不純物元素は材料特性に大きな影響を及ぼす.本研究では,走査透過型電子顕微鏡(STEM)および理論計算により,代表的な構造セラミックスであるα-Al2O3(アルミナ)における荷電欠陥の偏析機構を原子レベルで解析した.(i) Ca/Siを共添加したアルミナ粒界をSTEM観察した結果,Ca/Siが粒界上に共偏析し,無添加粒界とは異なる粒界構造に変化することが明らかとなった.第一原理計算により,STEM像と一致する粒界構造を再構成した結果,本粒界構造は無添加の場合は従来の粒界構造と比べて不安定であることが明らかとなった.本粒界におけるCa/Siの安定性を評価した結果,Caは構造的に大きく安定化する一方,Siの安定化度は小さかった.したがって,SiはCaの電荷を補償するために粒界偏析したと考えられる.(ii) Hfを添加したAl2O3粒界を時間分解型STEM観察した結果,Hfが粒界上を高頻度で遷移することが明らかとなった.また,Hfの滞在頻度および遷移頻度は粒界サイトごとに大きく異なった.理論計算においては,ニューラルネットワークポテンシャルを用いて解析した.計算の結果,Hfの電荷を補償するAl空孔が粒界上に偏析することが明らかとなった.いずれも偏析エネルギーおよび活性化エネルギーが粒界上において大きく低下し,Hfの粒界遷移が誘起されたと考えられる.以上のように,荷電欠陥は粒界偏析や粒界拡散において重要な役割を果たしており,荷電欠陥の制御により高機能を持つ新規セラミックスの創成が期待できる.
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