研究課題/領域番号 |
22J15257
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白井 菖太郎 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 超伝導共振器 / 超伝導量子ビット / コヒーレンス時間 / エネルギー緩和時間 / スピン依存力 |
研究実績の概要 |
本研究はボゾニック符号により保護された高精度制御可能な量子ビットを超伝導回路により実現することを目指すものである。この目標達成のため取り組んだ結果これまでに得られた研究実績を以下の通り報告する。 まず、化学的に安定な超伝導薄膜として知られるシリコン基板上に高温製膜した窒化チタン(TiN)薄膜を用いて超伝導2次元共振器及びトランズモン型量子ビットの作製を行った。作製の際には電極パターンを形成する際のドライエッチング条件について、表面粗さを測定しながら最適化を行った。その後の基板洗浄プロセスについてもアッシング(有機物除去)とフッ酸溶液による洗浄(酸化物除去)を取り入れることで両素子のエネルギー緩和時間として100μsを超える値を達成した。この結果は超伝導回路の分野において、世界的にみても最も性能が高いグループに属する結果である。 次に、上記で最適化を行ったTiN薄膜を用いたプロセスにより、2次元共振器と2次の非線形性を持つ超伝導量子ビットの結合系を作製した。この結合系を用い、2次の非線形性に特有な共振器と量子ビットの間1光子交換及び、共振器と量子ビットが同時に励起する2種類の遷移を観測し、量子ビットの状態に応じた共振器状態の制御を行うことができた。 以上の結果については日本物理学会の春・秋それぞれの大会において口頭発表を行った。さらに、上記の研究過程において超伝導量子ビット間や超伝導共振器間の結合を磁場の自由度(=SQUID)を用いずに制御する手法を開発し、論文として公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要において述べた高品質な超伝導共振器及び超伝導量子ビットの作製に成功したことについて、これらの性能は同一基板上に作製された場合でも性能の劣化が起きないことが確認された。当初は超伝導共振器と超伝導量子ビットを作製する基板を分離することでそれぞれに最適なプロセスを適用し(特に超伝導共振器について)高品質化を達成する計画であった。しかし当初の予想に反し、量子ビット作製プロセスが2次元超伝導共振器の性能に与える悪影響はほとんど観測されたなかった。そしてプロセス改善の結果、当初の目標でもあった2次元超伝導共振器の性能としては世界最高に分類される内部Q値10^6以上を達成した。これは集積化を目指す上でも回路の形状がシンプルになるという利点を持つ。
さらに、超伝導共振器中の電磁場モード状態と超伝導量子ビットの間のコヒーレント振動を観測することに成功し、このコヒーレンス時間は当初想定していた~2μsよりも3倍程度長く、今後誤り訂正実験を進めるうえで好材料である。
一方で当初の計画では今年度中に誤り訂正実験の初期評価を進める計画であったが室温制御エレクトロニクスが整備中のため取り掛かれていない。しかし、こちらの整備についても1か月以内には終了する予定であり、使用する超伝導回路の性能向上と総合して「おおむね順調に進展している。」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画で上げた小目標3つのうち2つについては昨年度の研究期間内において想定以上の成果を上げることができた。今後小目標の3番目である、誤り訂正実験に向け、超伝導共振器中の電磁場モードを制御するためのマイクロ波パルスシーケンスの最適化、室温制御系の迅速な構築を行う。
前者についてはすでに数値計算によって理想的な場合の波形をすでに得ているが実際の状況でどこまで性能を発揮するかは明らかではない。そこで、実験系と理想的な状況の間の差異を埋めるため、実験データをインプットとし、機械学習などの数理最適化アルゴリズムも用いながらパルス波形の最適化を行う予定である。
後者についてはすでに制御系の設計は終了しており、使用するマイクロ波源及びマイクロ波アンプの組み立てを終えれば実験をスタートできる計画である。
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