本研究は、現代イスラエルにおいて、中東・北アフリカ出身ユダヤ人(ミズラヒーム)の女性が、兵役経験をどのように解釈しているのかを調査した。ミズラヒーム女性がジェンダーとエスニシティ差別の交差点にいる点に注目し、彼女たちが置かれている重層的差別を指摘し、その中で彼女たちの主体性はいかなるものだったかを明らかにした。 最終年度はこれまでのインタビュー調査結果を踏まえ、ミズラヒーム女性とヨーロッパ出身ユダヤ人(アシュケナジーム)女性の語りを比較した。アシュケナジーム女性は兵役経験を社会的地位上昇の手段と考えること、また兵役経験を自己実現の手段だと考えていた。さらに戦闘部隊に従軍した女性たちは、部隊の女性嫌悪に苦しみつつも、女性らしさや女性としての尊重を維持・求めるような行動や語りをみせた。 これに対し、ミズラヒーム女性は兵役を過小評価されやすい部隊(後方支援や教育部隊)で過ごすことで、早婚や女性職への就職を目指すことが多かった。さらに兵役を経験しないことでミズラヒーム社会での伝統的女性としての尊重を模索したりすることで、共同体や家族が求める「伝統的女性性」を戦略的資源とするという主体性が見受けられた。こうした比較の結果、既存の研究がアシュケナジーム男性を基準として主体性を評価することに対し、本研究はジェンダーとエスニシティの交差性からミズラヒーム女性ならではの主体性を再検討し、その内実を明らかにできた。 これらの研究成果は、博士論文「イスラエルにおける兵役女性の主体性―エスニシティに注目して 」にまとめて提出し、博士号を取得した。
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