我々の運動学習系は、感覚器を通じて誤差を受けた経験を基に、試行をまたいで運動指令を洗練化する優れた能力を有している。しかしどのような感覚誤差情報を基に運動指令の洗練化プロセスを無意識に実行しているのか、またどのようなシステムによって干渉を受けるのかといった問題は解明されていない。 本研究では、腕到達運動を対象とした既存の行動実験パラダイムを改良することで、様々な誤差情報に対する試行をまたいだ誤差修正応答(運動学習応答)を測定し、運動学習系が運動指令を洗練化するプロセスの解明を目指した。前年度までは、不確実性な誤差情報や試行内で時間変動するような誤差情報に対する運動学習応答を測定してきた。さらに試行内で誤差を修正する応答(フィードバック応答)を意識的に出力することが、無意識的な運動学習応答を妨げることを報告した。 今年度は、それらの実験結果をもとに、誤差情報やその誤差情報に対する意識的・無意識的に生成されるフィードバック応答指令から運動学習応答が生成されるメカニズムを検討した。無意識的なフィードバック応答の大きさが運動学習応答生成の教師信号となっていることや、意識的なフィードバック応答指令が無意識的なフィードバック応答の大きさに影響を与えている可能性を明らかにした。さらに複数の到達運動で構成される往復到達運動課題を対象に誤差生起のタイミングが運動学習応答にどのような影響を与えるか検討したところ、誤差生起のタイミングは運動学習応答に反映されず、試行中の運動指令全体に影響を与えることも報告した。 これらの知見は、感覚誤差情報に基づいて運動指令を洗練化するメカニズムの一端の解明につながった。
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