研究課題/領域番号 |
22J20090
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋本 譲次 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | ギリシア悲劇 / 西洋古典 / 人物造形 / ソポクレス |
研究実績の概要 |
本研究は、ソポクレスの悲劇『ピロクテテス』の登場人物がどのような人物として描かれているのかという人物造形の理解を確立することによって、作品の「二重の結末」という解釈上の問題について新たな解釈を提示することを目的としている。本年度は、『ピロクテテス』の人物造形に対するホメロス叙事詩の影響と上演時の演出の影響についての考察をおこなった。まず人物造形に対するホメロス叙事詩の影響に関しては、アイスキュロスとエウリピデスの作品断片『ピロクテテス』とソポクレス『ピロクテテス』を比較することで、劇中の細部におけるソポクレス作品の独自性を見出した。そのうえで、その独自性にはホメロス叙事詩『イリアス』のほのめかしが見られ、それがソポクレス『ピロクテテス』の人物造形に影響を与えているということを明らかにした。次に人物造形に対する上演時の演出の影響の研究については、まず当該分野に関わる研究書籍及び研究論文の収集を中心におこなった。上記の研究内容について発表をおこなうために約1カ月間英国に滞在していたので、オックスフォード大学のボドリアン図書館やサックラー図書館を訪れ、本邦の研究機関に納められていない文献の収集をおこなうことができた。また、古典作品の人物造形研究で近年注目されているCognitive Approachという手法を用いたうえで、ソポクレス『ピロクテテス』における登場人物の「沈黙」という演出的側面が観客の人物理解にどのような影響を与えるのかという問題に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まずソポクレス『ピロクテテス』の人物造形へのホメロス叙事詩の影響に関しては、オックスフォード大学(8月15日)、ケンブリッジ大学(8月26日)、エディンバラ大学(9月1日)でおこなわれた研究集会で、上記の研究内容についての発表をおこなった。これらの研究発表に際して、オックスフォード大学ではギリシア悲劇の研究者であるチューリッヒ大学Gunther Martin教授から、エディンバラ大学ではギリシア文学におけるemotionの研究者である同大学Douglas Cairns教授から、拙論への質問及びコメントをいただき、本研究についての非常に有益な示唆を得た。 またエディンバラ大学での研究会の後、『ピロクテテス』についての論文を多数執筆されているセント・アンドルーズ大学Elizabeth Craik名誉教授と意見交換する機会に恵まれ、Craik教授の執筆された『ピロクテテス』の演出的側面についての論文を紹介していただいた。さらに、2023年3月20日の日仏ギリシア・ローマ学会で、古典作品の人物造形研究で近年注目されているCognitive Approachという手法を用いて、登場人物の沈黙という演出的側面が観客の人物像理解にどのような影響を与えるのかについて研究発表をおこなった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き、次年度もソポクレス『ピロクテテス』の人物造形についての研究を進める。特に、本年度はCognitive Approachという研究手法に触れたことができたが、それ以外にもLinguistic Approachesなどの古典作品の人物造形研究において近年注目されている手法が存在するので、それらについて知見を深め、ソポクレス『ピロクテテス』に応用することを目指す。また、Linguistic Approachesはエウリピデス『エレクトラ』などの他作品の人物造形研究において用いられているので、それらとの比較研究も視野に入れている。以上の研究について引き続き国内外で研究発表をおこない、論文執筆を目指す。
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