研究課題/領域番号 |
22J20303
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 佑輔 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 高齢者 / 若者 / ステレオタイプ / 偏見 / 差別 / 態度変容 / 主観的時間 / 感染嫌悪 |
研究実績の概要 |
本研究では、高齢者に対する否定的態度の軽減に向け、その関連要因および具体的な方略について検討した。そもそも、高齢者という社会集団は (1) 誰もがいつか所属する、(2) 過度に病気と結びついて認知されやすいという点で、人種的・性的マイノリティといった被差別集団と大きく異なる。(1) の特徴と関連して、本研究では高齢者になるまでの主観的時間 (高齢者になるのはどのくらい先のことであると感じるか) と高齢者への否定的態度の関連について検討した。その結果、高齢者になるまでの主観的時間が長い人ほど、否定的態度が強いことが示された。また「誰もがいつか高齢者になる」という着眼点を含む理論である、ステレオタイプ・エンボディメント理論と関連する複数の実証的知見に関する説明文を参加者に提示するという態度変容方略について探索的に検討した。その結果、高齢者になるまでの主観的時間が短くなり、高齢者に対する態度が肯定化した。 また本研究では (2) の特徴にも着目し、感染嫌悪 (病気に対する嫌悪) と否定的態度の関連について検討した。その結果、感染嫌悪の程度が高い人ほど高齢者に対する否定的態度が強いことが示された。この関連は、参加者の外向性や一般的信頼といった個人差変数を統制してもなお顕著であった。また、高齢者一般の身体的健康および精神的健康の程度へのイメージ (高齢者をどの程度健康的な存在と捉えているか) と、否定的態度の関連について検討したところ、特に精神的健康へのイメージと高齢者への態度が密接に結びついていることが示された。以上の知見を踏まえ、今後は (1) と (2) の着眼点を組み合わせた態度変容方略について詳細に検討する必要がある。また、高齢者に対する否定的態度が高齢者に及ぼす影響についても引き続き検討し、若者および高齢者を対象とした実証的知見について統合的に整理すべきである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、高齢者に対する否定的態度と関連する要因の解明、およびその軽減に向けて順調に進展している。社会心理学の先行研究を踏まえた実験・調査の立案および実施を円滑に行っており、高齢者という社会集団が抱える固有の特徴に着目したアプローチを取ることができている。また、人種や性別といった他の文脈の先行研究を適切に援用しつつ、高齢者という社会集団における固有の態度変容方略について考案する土台を整えられたと考えられる。加えて、教育老年学や老年看護学といった近接する学問領域の知見についても取り入れる試みを行っている。研究成果についても、学会発表や学術論文の執筆・投稿を積極的に行うことができている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度行った理論的検討をさらに深めると共に、実証的研究を重ね、再現性の高い知見として公開していく。また、高齢者に対する態度を肯定化する方略について、それを教育現場や福祉現場において実装しやすい形に昇華することを目指す。本研究のアプローチの中でも、特に高齢者になるまでの主観的時間を短くする方略は、若者に対して長期的視野で人生設計を行うよう促す介入と親和性が高い。よって、教育学や教育老年学の知見についても詳細なレビューを行った上で、本研究の実践的意義を高めていきたい。また、コロナ禍におけるオンライン実験の限界点にも着目した上で、それを補う方略についても検討する必要がある。
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