研究実績の概要 |
球状トカマク磁気リコネクションを対象に, 私が開発したドップラープローブアレイによるイオン流速1次元分布計測と磁気プローブによる磁場2次元分布計測, 静電プローブによる静電ポテンシャル2次元分布計測を行い, リコネクションに伴うイオンアウトフロー速度とイオンドリフト速度の関係を検証した。図1のように磁気プローブ, 静電プローブで計測したリコネクション下流領域における静電気力, 磁気勾配力, 磁気遠心力の面内成分を比較したところ, 静電気力が他の力に比べて1~2桁大きく, このことからイオンドリフト速度の主要因はリコネクションで生じる面内電場と紙面垂直方向のトロイダル磁場の外積で表されるE×Bドリフトであると推測できた。次に図2のようにドップラープローブで計測したイオン流速とイオンドリフト速度のr方向分布を比較したところ, 先に述べたようにイオンドリフト速度の主要因がE×Bドリフトであることが確認でき, さらにイオン流速のr方向分布とE×Bドリフトのr方向分布がよく一致する結果を得た。また, 4週間, 英国の核融合ベンチャーTokamak Energy社において共同研究を行った。同社では本研究室と同様に球状トカマク合体加熱を利用した核融合実験装置ST-40を運用している。ST-40装置は本研究室の装置と比べて装置サイズや印加できる磁場が大きいため, 合体加熱パワーも大きく, 核融合炉実証に近い条件で球状トカマク合体加熱実験が可能である。本研究室ではこれまで1スリット32チャンネル分光での1次元イオン温度再構成計測を実現していた. 今回の派遣では次期キャンペーンに向けて3スリット96チャンネル分光での2次元イオン温度再構成計測ができるようアップグレードを行った。次期キャンペーン期間中にも派遣予定であり, 高い加熱パワーの実験において球状トカマク合体加熱の最適化に取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本報告期間では当初の計画通り静電プローブによる2次元静電場計測を追加したことで, 球状トカマク合体リコネクションに伴うイオンアウトフロー速度とイオンドリフト速度の関係を検証し, イオンドリフト速度の主要因がE×Bドリフトであることと, イオン流速のr方向分布とE×Bドリフトのr方向分布がよく一致する結果を室内実験で初めて得た。また, 英国の核融合ベンチャーTokamak Energy社との共同研究も本格化し, 超高磁場球状トカマク合体装置ST-40でこれまで1スリット32チャンネル分光での1次元イオン温度再構成計測を実現していたところを, 次期キャンペーンに向けて3スリット96チャンネル分光での2次元イオン温度再構成計測ができるようアップグレードを行い,当初の計画通り次期キャンペーンの準備を完了することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで運用してきた1次元イオン流速計測, 2次元電磁場計測に2次元イオン温度計測を加えて, 球状トカマク合体リコネクションのイオンアウトフローがどのようにイオン加熱に変換されるかを調べる。また, ガス種を変えても分光計測できるようにスリット幅が可変な分光システムにアップグレードして質量依存性を調べてリコネクション加熱の物理を考察する。 英国の核融合ベンチャーTokamak Energy社との共同研究については, 次期キャンペーンまでに合体圧縮コイルの放電波形の変化による加熱効率を検証するための実験オペレーションを細かく議論し, 限られた実験期間の中で2023年度にアップグレードしたイオン温度計測装置を用いて球状トカマク合体加熱最適化の研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に繰り越すこととなった予算は、当初2023年度において英国核融合ベンチャートカマクエナジー社での共同研究に伴う旅費に当てられる予定であったが、共同研究先の実験スケジュールに変更があり、2023年度内に計2ヶ月程度出張する計画であったところ実際には1ヶ月のみとなったことで、学内のプログラム支援の範囲でカバーでき、年度内に執行する必要がなくなった。当予算を執行予定であった2023年度に実施される予定であった実験が、現在2024年5月に予定されているため、次年度使用額はそれに伴う旅費に当てる計画である。また、その後も2024年度内に2ヶ月程度滞在を予定しているため、2024年度分の予算はそれに伴う旅費と、学内の実験に必要となる特注小型平面ミラー、光ファイバー用コネクタ(Thorlabs FC/PC Multimode Connector, φ500 um Bore, SS Ferrule)96CH分の購入に当てる計画である。
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