研究課題/領域番号 |
22J20888
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 博信 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 量子多体系 / 開放量子系 / GKSL方程式 / フェルミハバード模型 |
研究実績の概要 |
当該年度は、散逸のあるハバード模型のリウビリアンギャップと単一フリップダイナミクスに着目して研究を実施した。本研究の背景として、近年、量子開放系に関する実験技術が大きく進展していることから、そのダイナミクスの理論的な解析が重要性を増している。特に、冷却原子系を用いて散逸のあるフェルミハバード模型は実験的に実現されており、そのダイナミクスも実験的に調べられている。しかし、本模型の理論的な解析は散逸がない場合よりも難しく、例えば緩和時間を特徴づける量であるリウビリアンギャップの厳密な解析は1次元かつスピン1/2の場合に限られていた。 当該年度の研究の結果、以下の研究成果を得られた。まず、d次元立方格子上のSU(N)フェルミハバード模型のリウビリアンギャップを、1サイトあたりの平均原子数が 1 個の場合に解析的に求めた。特に、リウビリアンギャップはdやNに依存せず、立方格子の 1辺の長さがLかつ周期的境界条件の場合には、Lの逆2乗に比例することを示した。次に、各サイトが1種類の粒子で詰まった状態から、1つだけ違う種類の粒子に置き換えた状態を初期状態とするダイナミクスを調べた。この場合、置き換えた粒子の生存確率は散逸や原子間の相互作用が小さな場合には指数関数的に減衰するのに対し、散逸や原子間の相互作用が大きな場合はべき的に減衰することを解析的・数値的に示した。 本研究成果は原著論文として出版された他、国際学会・国内学会で発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画は、d次元の散逸のあるフェルミハバード模型においてその緩和時間と特徴づけるリウビリアンギャップを評価するというものであったが、この研究目標は今年度の研究によって達成された。さらに、今年度の研究ではそれに留まらず、本研究で用いた手法を応用して各サイトが1種類の粒子で詰まった状態から、1つだけ違う種類の粒子に置き換えた状態を初期状態とするダイナミクスを解析的・数値的に調べ、興味深い結果を得た。これは当初の研究計画では想定していなかった成果であり、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、次の2つの研究に取り組む。(1)散逸のある量子多体系における遅く緩和するモードの解析、(2)拡張されたSU(3)フェルミハバード模型の基底状態の性質の研究 (1)散逸のある量子系のマルコフなダイナミクスは、GKSL方程式によって記述される。GKSL方程式はリウビリアンと呼ばれる演算子によって特徴付けられ、この演算子の固有値や固有モードが定常状態や、定常状態への緩和のダイナミクスの情報を持っている。そして、十分時間が経った時の緩和のダイナミクスは遅く緩和する固有モードたちによって特徴付けられる。量子多体系の場合、全ての固有モードの解析を行うことは一般には困難だが、遅く緩和する固有モードを解析することは比較的容易な場合がある。例えば、今年度研究した、2体ロスのあるフェルミハバード模型はその例である。翌年度は今年度の研究を拡張し、ロスのある量子スピン系などに対して解析的、数値的に十分時間が経った時の緩和のダイナミクスを解析することを試みる。 (2)2021年度に行った研究にて、ηペアリング状態をN体のクラスターに一般化した状態が、拡張されたSU(N)フェルミハバード模型の厳密な固有状態になっていることを示した。一方で、本模型の基底状態の性質は未だ未解明である。そこで、N=3の場合に本模型の基底状態の性質を調べる。具体的には、相互作用が強い場合からの摂動論や、DMRG等を用いた数値計算手法を用いる。
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