研究課題/領域番号 |
22KJ1026
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 博信 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | 開放量子系 / SU(N)ハバード模型 / 非平衡ダイナミクス |
研究実績の概要 |
本年度の主な研究成果としては以下の3つが挙げられる:(1) GKSL方程式における非平衡定常状態の一意性、(2) 散逸のあるフェルミハバード模型における2体ダイナミクスの解明、(3) 拡張されたSU(3)フェルミハバード模型の基底状態の研究 (1) GKSL方程式における非平衡定常状態の一意性:量子開放系のマルコフなダイナミクスはGKSL方程式により記述される。長時間が経つと、系は非平衡定常状態に緩和するが、本研究ではヒルベルト空間が有限次元の場合に、一般のGKSL方程式に対して非平衡定常状態が一意になる十分条件と、その初等的な証明を与えた。また、その十分条件を用いて、位相緩和のあるXYZ模型やtight-binding模型の非平衡定常状態が、模型の持つ対称性のセクターの中で一意であることを示した。この十分条件は適用範囲が非常に広いため、様々な開放量子系の解析に用いることができる。 (2) 散逸のあるフェルミハバード模型における2体ダイナミクスの解明:本研究では、散逸のある1次元フェルミハバード模型における2体問題を、厳密な手法であるベーテ仮設法を用いて調べた。その結果、様々な初期条件に対して長時間ダイナミクスの解析的な表式を得た。 (3) 拡張されたSU(3)フェルミハバード模型の基底状態の研究:本研究では、2体のホッピングのあるSU(3)フェルミハバード模型の基底状態を、1次元、相互作用が引力の場合に調べた。まず引力相互作用が非常に大きい場合からの摂動論を用いて、基底状態は(i) 朝永Luttinger液体相、(ii) 相分離相、(iii) 電荷密度波相、の3つの相を示すことを発見した。また、有限の引力相互作用の場合にもこれらの結果が成り立つことをDMRG法により数値的に確かめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の研究計画に挙げていた、散逸のある量子多体系における遅く緩和するモードの解析と拡張されたSU(3)フェルミハバード模型の基底状態の性質の研究に関して、複数の興味深い結果を得ることができた。それに加えて、GKSL方程式における非平衡定常状態の一意性に関する結果は、研究計画の時点では予想していなかったものである。本研究成果は、広いクラスの開放量子系に用いることができる便利な手法であるため、広く応用されることが期待できる。それらを総合して、今年度の成果状況は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた結果をさらに発展させ、以下の2つのテーマの研究を行う。 (1)開放量子多体系の定常状態の解析:今年度の研究では、開放量子多体系の定常状態の縮退度に関する定理を示した。翌年度は今年度に行った研究をさらに深め、表現論の知識も利用することによって、この定理の非可換な対称性や非局所な保存量がある場合への拡張を目指す。 (2)拡張されたSU(3)フェルミハバード模型の基底状態の研究:今年度の研究では、拡張されたSU(3)フェルミハバード模型の基底状態を、1次元、相互作用が引力の場合に調べた。引力が大きい時の相図は得られたが、一方で引力が小さい時の相図は未解明である。ボゾン化によって低エネルギー有効理論は得られているので、それを調べることによって基底状態の性質を探究する。一方で、有効理論は粒子密度の自由度とスピンの自由度が結合した複雑なものであるため、解析的な結果が得られない可能性がある。その場合は数値的に基底状態の性質を探究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度参加した複数の研究会に特別研究員奨励費を用いて参加することを計画していたが、研究会側から旅費補助が支給されたため、経費の使用が節約できた。繰り越した予算は2024年度に国際学会や研究会に積極的に参加し、研究成果を発表することによって有効に活用する予定である。
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