研究実績の概要 |
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は骨格筋の萎縮や筋肉内脂肪蓄積、線維化が生じる進行性の筋疾患である。DMDラットの骨格筋では加齢とともに筋衛星細胞や間葉系前駆細胞で細胞老化が生じており、この老化細胞の蓄積が病態進行と強く相関している。そこで本研究では老化細胞が筋萎縮や筋肉内脂肪蓄積、線維化を引き起こす機序を明らかにすることを目的とした。これまでに以下の成果が得られている。 1.過酸化水素処理により老化誘導した間葉系前駆細胞の培養上清を用いて筋衛星細胞を培養すると筋融合が阻害される。このことから老化間葉系前駆細胞は筋融合抑制因子を分泌し、筋再生を妨げると推測される。この因子を同定するために限外ろ過フィルターを用いて分子量の推定を行ったところ、分子量10,000以上の高分子であることが判明した。 2.骨格筋に老化細胞が存在するという生体内環境が全身の筋再生に与える影響を評価するために、8か月齢の野生型ラットとDMDラットそれぞれに野生型ラットの長趾伸筋を移植し、その筋切片を観察した。その結果、野生型ラットに移植した場合と比較してDMDラットに移植した場合では線維径の小さな再生筋線維の割合が増加しており、DMDラットでは筋融合を抑制する因子が全身性に循環している可能性が示された。 3.筋衛星細胞のMyoD発現をsiRNAにより抑制すると細胞老化が生じ、その際、共存する間葉系前駆細胞に脂肪分化が誘導される。リピドーム解析により、老化筋衛星細胞の培養上清にはプロスタグランジン(PG)E2やPGD2、PGF2αといったPG類がより多く含まれていた。このことから、これらPG類が脂肪分化を誘導する可能性がある。
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