研究課題
頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)は世界で6番目に頻度の高い悪性腫瘍であり、年間45万人の命を奪っている。HNSCCは上顎骨や下顎骨などの骨組織に直接浸潤することが特徴であり、骨浸潤は患者の生命予後を顕著に増悪する。様々な腫瘍において、原発巣からの血行性骨転移のメカニズムが精力的に研究されている一方、骨浸潤は腫瘍が骨組織へと浸潤する過程に「骨膜」が介在する点で一般的な骨転移とは異なる病態形成機序が想定されるが、腫瘍骨浸潤の実験系はこれまでヒト細胞株と免疫不全マウスを用いたものが主であり、その分子機構や生体応答機序に関し不明な点が多く残されている。当該研究者はまず、B6系統マウス由来HNSCC細胞株を使用することで、B6背景におけるHNSCC骨浸潤モデルを確立した。ヒトおよびマウスのHNSCC病変部の組織学的解析により、がんの骨への近接部位では骨膜の厚みが約3-4倍程度に増加していることが明らかとなった。次に、HNSCC骨浸潤モデルマウスから採取した骨浸潤部組織を用いたシングルセルRNAseq解析をおこなうことで、腫瘍の骨組織への接近に伴い骨膜細胞において遺伝子発現パターンが大きく変化することを明らかにした。腫瘍浸潤前の骨膜細胞ではプロテアーゼ阻害因子PIFの発現が上昇しており、PIF欠損マウスでは骨膜が肥厚せず、HNSCC骨浸潤が著名に増悪した。以上より、骨膜細胞は腫瘍の接近に応じてPIFを放出することで細胞外基質の蓄積を促すこと、これにより骨膜が肥厚し腫瘍の骨浸潤を物理的に抑制することが明らかとなり、骨組織は腫瘍に対するユニークな生体防御機構を有している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
2023年度は、HNSCC骨浸潤部組織を用いたシングルセルRNAseq解析データから骨膜細胞で発現が上昇する遺伝子を同定し、ノックアウトマウスの解析まで進捗しており、研究計画はおおむね順調に進展していると考えられる。
腫瘍の近接に伴い、骨膜細胞でPIFが発現するメカニズムを解明する。さらに、HNSCC浸潤部における骨膜細胞、破骨細胞、免疫細胞の3者関連に関し詳細な解析を進める予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件)
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