研究課題/領域番号 |
22J21306
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杉野 正和 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 視覚情報処理 / 脳磁図 / 磁気共鳴画像 / 図形認知 / 学習障害 |
研究実績の概要 |
本研究では、MRIや脳磁図を用いて得られる大脳皮質視覚野の構造情報および活動情報を基に、視覚刺激に対する情報処理のモデル化と可読性の定量的評価手法の開発に取り組んでいる。MRIを用いた計測では、解剖画像および拡散強調画像を撮像し、大脳皮質の表面形状と皮質領域間の結合状態を取得することで、構造を反映したモデルを構築した。このモデルに脳血流変化や脳磁図の情報を加えることで、脳の各領域での活動の推定や大脳皮質上での活動の伝搬の再現に取り組んだ。これにより、センサ配置の最適化や複数の領域をまたがる活動に対する評価に役立つと考えている。神経細胞集団の活動のモデル化においては、既存のモデルに対して、集団内に含まれる神経細胞の性質の不均一性を反映可能なモデルに拡張することに取り組んでいる。これにより、脳計測で得られる神経細胞の密度や方向性を組み込み、より実際の神経細胞集団に近いモデルの構築が可能となる。既存モデルの拡張と神経細胞の密度や方向性の反映を同時に行うことで、モデルの再現性を高めながらも、大規模なシミュレーションにおける計算時間の短縮を目指している。可読性の評価に向けては、文字および文章を提示した場合に視覚野の活動が観察しやすくノイズが小さい提示手法や計測手法の検討を行った。そのうえで、提示刺激の違いにより脳活動の大きさや時間遅れに違いが見られることを確認した。脳活動の解析においては、時間遅れ相互相関を利用した解析や機械学習を用いや空間フィルタの適用により、複雑な活動に対しても特定の領域の活動のみを抽出可能な手法の構築を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、磁気共鳴画像と脳磁図を用いた脳のモデル化に必要なデータの取得と解析に取り組んできた。モデル化のために必要な脳構造の評価では、磁気共鳴画像法を用いて解剖画像および拡散強調画像を撮像し、大脳皮質の表面形状と皮質領域間の結合状態を取得した。また、同じく磁気共鳴画像法で得られる脳血流変化の情報を用いて、大脳皮質の各領域での活動の推定や、大脳皮質上での活動の伝搬を再現する手法を構築した。今後は拡散強調画像に対してNODDIと呼ばれる解析手法を用いることで得られる神経細胞の密度や方向性を利用して、大脳皮質の各領域の結合状態をより詳細に反映することを目指す。視覚刺激提示時の脳活動計測においては、解析手法の改善として、機械学習を用いた空間フィルタの作成とノイズ除去を検討した。非線形的な処理が加わることで、大脳皮質の注目領域の活動と時空間的に近い活動が存在する場合においても、高い精度で空間的なフィルタを適用できる可能性が示された。刺激提示手法としては、文字および文章を様々な方法で提示させた際の脳磁図および脳波データを解析し、視覚野における活動が観察しやすく眼球運動等のノイズが小さい提示方法の検討を行った。提示刺激の違いによる脳活動変化や、提示から脳活動までの時間遅れが確認された。視線を固定しない場合の脳活動計測については、視線計測による画面上の注目領域の算出に取り組んだが、本研究で用いるには推定誤差が大きかったため、この改善も今後の課題となっている。モデル化においては、神経細胞集団の活動を表す既存のモデルと比較して、神経細胞の性質の集団内での不均一性をより反映したモデルの構築と、脳構造の計測で得られた構造的情報との統合を進めている。数理的な特性の検討や計算の高速化についても今後取り組んでいく。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、脳の神経線維束の描出による構造的な情報の取得にも取り組みつつ、脳における視覚情報処理のモデル化に取り組むため、図形等を提示した際の視覚処理経路における脳活動を、機能的MRIや脳磁図を用いて計測する。脳磁図においては、ノイズの軽減や計測時間の短縮のために、活動波形の時間遅れ相互相関を用いた計測手法の検討を進める。また、色や形状の異なる様々な視覚刺激を提示した際の視覚野における神経細胞集団の活動を再現する小規模なシミュレーションモデルの構築に取り組む。モデルでは、実際の脳における機能局在および再帰的な情報入力の実装や、ノード間の結合の重みの更新に逆誤差伝搬とは異なる、シナプス可塑性に類似した学習則を導入した場合の学習メカニズムの変化についても確認を行う。これらを基に、脳における視覚情報処理のメカニズムを模倣した機械学習モデルの構築に取り組み、ヒトの視覚認知により近い情報処理を可能とするために、機能的MRIや脳磁図を用いた視覚刺激提示時の脳活動計測結果との比較を行う。機能的MRIや脳磁図で得られる信号は、刺激に応答する神経細胞を含むマクロなスケールの活動を反映していることや、複数の活動が混在して計測されることを考慮した解析手法の改善に取り組む。さらに、研究の目的である、文字や図形の認識に関する障害に対する支援方法の構築を目指す。読み書き障害を持つ児童生徒向けに作成された既存の教科書や書籍におけるフォントやデザインが、一般的に使用されているものと比較してどのように視認性や識別性が異なるかを確認した後、構築した機械学習モデルを用いて、より視認性や識別性の高い視覚刺激の特徴をまとめる。
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