研究課題
現在遂行中である光リング共振器を用いたアクシオン暗黒物質探索実験(DANCE)において、本年度は以下の研究成果を得た。【光学素子の改良による高感度化】現在のプロトタイプ実験DANCE Act-1では、s偏光とp偏光を共振器内に同時に共振させるため、偏光ビームスプリッター(PBS)を使用した補助共振器を導入している。この補助共振器を用いた同時共振により感度を向上させられるが、PBSによるロス等によって感度を当初の予定ほど向上させられないことが明らかになっていた。そこで、PBSをDANCE Act-1の入射角である42度に対応したものに変更、また反射防止膜を施すことによって、光学ロスの低減を行い、感度を2.4倍改善することに成功した。【雑音源の特定】DANCEではアクシオン暗黒物質の信号は共振器透過光の偏光回転として現れ、これはPBSと光検出器を用いて測定することができる。偏光回転角測定の究極的な感度は光の量子性に起因した雑音であるショットノイズによって制限されるが、現実にはショットノイズよりも大きい古典的な雑音が支配的である。したがって感度向上のためには、古典的な雑音源とそのメカニズムを特定し、対処・低減することでショットノイズリミットを目指す必要がある。そこで、偏光回転角測定から得られたデータを解析することで雑音源の特定を行った。その結果、現在支配的となっている雑音源が共振器の機械振動やレーザーの周波数雑音に起因した位相雑音であることを特定した。【オフライン解析による雑音の低減】偏光回転角測定において位相雑音が支配的な雑音源であることが判明したため、位相雑音の情報を含んだフィードバック制御信号を用いてオフライン解析を行い、雑音の低減を行った。時系列データ上での引き算を行うことによって、0.1-100 kHzの周波数帯に渡って一桁以上雑音を低減することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
本年度に定めた研究実施計画の進捗状況は以下の通りである。【高感度な共振器の開発】補助共振器に使用されているPBSでの光学ロスが共振器のフィネスの低下に寄与していることを特定し、PBSを最適なもの交換することによって感度改善に成功した点で、順調に進行している。しかし、最適化されたPBSであっても補助共振器ロスの要求値である0.01%を下回ることができないことが明らかとなり、補助共振器を用いたs/p偏光同時共振手法の限界という新しい問題点が洗い出された。そのため、今後の同時共振手法については計画を再検討する必要がある。【雑音の低減】雑音低減のためには最初に雑音源とそのメカニズムの特定を行う必要があり、現在の感度において共振器の機械振動やレーザーの周波数雑音に起因した位相雑音が支配的であることを明らかにした点で、順調に進行している。加えて、これらの位相雑音は光の強度変化を測定するDANCEにおいて原理的には雑音にならないと従来考えられていたが、この考えに反し、共振器内部における複屈折にこれらの位相雑音がカップルすることで偏光回転角測定の雑音になるという雑音カップリングのメカニズムの解明にも成功した点も順調である。さらに、当初は予定されていなかったオフライン解析による雑音低減手法を考案し、広帯域に渡る約一桁の感度改善に成功した点は計画以上に進展している。しかし、当初予定されていた共振制御の改善による雑音低減は以上の研究遂行のため、やや遅れている状況にある。【入射光のハイパワー化】入射光のハイパワー化により量子雑音であるショットノイズを低減することが期待されるが、同時に熱による問題等を引き起こす可能性があるため、本年度は実施を見送り、雑音の特定・低減を優先させた。
今後は、DANCE Act-1の雑音低減、感度向上を以下のように行っていく。【共振制御の最適化】現在のDANCEでは共振器長変動やレーザー周波数雑音といった位相雑音が支配的な雑音になっている。そこで、位相雑音を抑制するフィードバック制御において、制御フィルターを最適化することによって位相雑音の低減を改善する。【防振機構、真空槽の導入】共振器長変動雑音は、地面振動や大気を通した音によって導入される。そこで共振制御による抑制だけではなく、ゴム足とプレートを使用したスタック防振機構と真空槽を導入することによって、共振器長変動雑音の根本的な低減を行う。【共振器内複屈折を打ち消す偏光の入射】偏光回転角測定の感度を向上させる上では、雑音減となっている位相雑音そのものの低減だけでなく、雑音カップリングの原因となっている共振器内複屈折の低減も有効である。そこで、複屈折で生じてしまう余計な偏光成分を打ち消すような光を共振器に入射することによって雑音カップリングを低減し、感度の向上を行う。【レーザーのハイパワー化】古典雑音を十分に低減すると、光の量子性に起因したショットノイズが支配的な雑音となる。したがって、本研究の目標感度であるCAST実験の感度に到達するためには、位相雑音といった古典雑音だけでなく、量子雑音の低減も行っていく必要がある。そこで、現在は20mWに制限している入射光強度を2Wまでハイパワー化することによってショットノイズとの信号雑音比を改善し、感度の向上を行う。【補助共振器を使用しない同時共振手法の開発】補助共振器を利用したs/p偏光の同時共振では、PBSにおける光学ロスが共振器のフィネスを制限してしまうことが明らかになったため、補助共振器を使用しない新しい同時共振手法の開発が求められている。現在は反射位相差に波長依存性のあるミラーと波長可変レーザーを用いた手法を検討している。
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