研究課題/領域番号 |
22J21602
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
河合 敬宏 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
キーワード | 水質変成 / リュウグウ / 層状ケイ酸塩 |
研究実績の概要 |
リュウグウ試料中に存在するものと同種の層状ケイ酸塩鉱物を、グローブボックス内においてアルゴン・水素雰囲気下で還元し、これら試料の価数をメスバウアー分光法及び透過X線によるXANES分析により算出することで、層状ケイ酸塩の構造中の鉄の価数と酸化還元電位の関係を分析した。特にリザーダイトについては、これまではサポナイトと比べ同じ還元電位下ではより2価鉄が多くなると推定していたが、実際にはほとんど変わらない可能性があることが判明している。 また、公募で得たリュウグウ試料についても加工・分析を行った。これまで、軟X線領域の放射光X線を用いたリュウグウ試料及び炭素質コンドライト隕石の分析では、透過X線を測定することで高分解能元素化学種解析を行っていた。軟X線領域で透過X線を分析するには、試料を超薄片に加工する必要があり、集束イオンビーム加工と呼ばれる加工法が用いられることが多い。しかし、この加工方法では、試料へ熱ダメージが加わるとされており、ダメージに弱い物質が変質・揮発してしまう可能性があった。そのため、我々はSPring-8において、窒素雰囲気下でリュウグウ試料をCTスキャンし、得られた3Dデータを用いて、ダイヤモンドワイヤーソーによる加工を行うことで、ビームダメージのない試料平面を作成した。こうして分割した試料について、SPring-8 BL-17SUやKEK-PF BL-19Aの放射光X線を用いた高分解能元素化学種分析を行うことで、よりダメージの少ないリュウグウ試料平面の元素分布を調べることに成功している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
公募で得たリュウグウ試料について、ダイヤモンドワイヤーソーでの加工中に、試料のクラックのために一部が砕けてしまうなどのトラブルもあったものの、おおむね計画通りに試料の分割を行うことができた。現在、SPring-8及びKEK-PFにおいて、これら試料について放射光X線を用いた分析を順調に進めている。他には、層状ケイ酸塩の元素分析だけではなく、リュウグウ試料中の窒素化学種について、蛍光X線を用いた分析を進めており、リュウグウ試料にアンモニアが存在するのかどうか、明らかになる可能性がある。 一方で、リュウグウ試料中に存在するクロンステッタイトなどの水熱合成についてはあまり進展しておらず、今後の課題となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
リュウグウ試料において実際に見られたものと同じ化学組成の層状ケイ酸塩について、構造中に含まれる鉄の酸化還元状態と鉄価数の関係を調べ、どの鉱物が還元反応に関わっているかを推定する。層状ケイ酸塩の化学組成には幅があり、同種の鉱物でも、元素比が異なると酸化還元電位も異なる可能性があるためである。しかし、天然試料でリュウグウと近い組成の層状ケイ酸塩を見つけるのは難しいと考えられるため、その場合は水熱合成法などを用いて合成する必要がある。 また、引き続き放射光X線を用いたリュウグウ試料の蛍光X線分析を進め、ダメージのない領域のデータを集めていく予定である。また、有機物の合成反応にはアンモニアなど炭素以外の物質が関与している可能性もある。特にアンモニアはリュウグウ表面の赤外線分析において検出されているが、リターンサンプルにおけるアンモニアの分析には大きな進展がない。これは試料の加工・分析におけるダメージにおいて、揮発性の高い物質が失われてしまっている可能性を示唆している。こういったダメージに弱い物質の分析には、集束イオンビームを用いない加工を施したサンプルを分析する必要がある。本研究ではリュウグウ試料をビームダメージ無しで加工することに成功しており、本試料について、放射光X線を用いた蛍光X線分析を行うことで、リュウグウ試料中のアンモニアの有無や分布を明らかにできると考えている。
|