研究課題
小惑星リュウグウは、炭素質コンドライト隕石と同じ母天体を持つと考えられている。炭素質コンドライト隕石は有機物を豊富に含む隕石であり、地球に有機物を供給したとされる。リュウグウ母天体では、氷が熱により溶けだし、水による鉱物の変成が起こったと考えられている。この際、鉱物以外にも有機物なども変成を起こしている可能性があり、水質変成中の水の化学状態は生命の起源にかかわる重要な問題である。我々は。Ryugu sample AOで配布を受けたリュウグウ試料について、嫌気下でダイヤモンドソーで切断またはFIB加工した試料を、放射光X線顕微鏡で分析し、マイクロビームを用いた局所XANESやバルクXANESを測定した。リュウグウ試料中に存在する可能性がある各化学種、具体的には塩化物や水酸化塩化物、炭酸塩、各種陽イオンを吸着させたサポナイトなどを合成するなどして標準試料として用い、同様の分析を行った。こうして得られた標準試料のXANESスペクトルを用いた線形結合フィッティングから、これら元素が試料中にどのような化学種として存在しているのか推定した。次に、試料の一部をEpofix樹脂に埋め込み、乾式研磨により得た平滑面について、EPMAによる分析で層状ケイ酸塩領域の化学組成分析を行った。得られた結果から、リュウグウ試料層状ケイ酸塩層間の陽イオン組成を推定した。他にも、SEM,TEM-EDSなどの手法を組み合わせ、リュウグウ試料の鉱物組成などの分析を行った。サポナイト層間の陽イオン選択係数と層間陽イオン比と、リュウグウ試料中に存在する鉱物の種類・組成から、リュウグウの水環境、特に酸化還元電位とpHについての推定を行った。その結果、水質変成の終了時のリュウグウの水は非常に還元的であり、かつ高pHであることが判明した。このような環境下では、水の還元など、様々な還元反応が起こっていた可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定ではリュウグウ試料中に存在する層状ケイ酸塩の構造中の鉄の価数について、電気化学実験による分析を行い、リュウグウの水環境、特に酸化還元電位について推定する計画であった。しかし、層状ケイ酸塩の層間陽イオン比から水環境の推定を行うことができると考え、先にバルクXANES分析と化学計算に基づく水環境の推定を行った。その結果、酸化還元電位やphについて推定値を求めることができた。
これまでの研究では、サポナイトの層間陽イオン比の分析などからリュウグウの水環境の推定を行ってきた。今後、これら分析について測定回数を増やすなどして分析精度を上げていくとともに、実験計画に挙げていたような電気化学的側面から水環境の推定を行う予定である。具体的には、リュウグウ試料中と同じ組成の層状ケイ酸塩を合成するなどして用意し、その構造中の鉄価数の挙動を調べることで、リュウグウの水環境、特に酸化還元電位について分析を進めていく。
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Science Advances
巻: 9 ページ: -
10.1126/sciadv.adi3789