研究実績の概要 |
熱力学は現象・操作に対して原理的な限界を与える。平衡系間遷移に注目した理論が19世紀から研究されていたが、今世紀になってから非平衡系を直接扱う手法が開発されてきた。その際たる例が、メゾスコピック系を対象とするゆらぎの熱力学(stochastic thermodynamics)である。 私はこれまで、線形な方程式に基づくゆらぎの熱力学がどのように非線形な化学反応系に応用可能であるかを研究してきた。本研究計画における初期の研究はそのような流れの一部であった。その結果、ゆらぎの熱力学の一般性は目覚ましいものであることが明らかになり、化学反応以外の応用先もあるのではないかと私は考えるようになった。 今年度行った研究はもっぱらそのようなアイデアに基づく。すなわち、今年度の研究によって、従来の理論が流体系および反応拡散系でも有用であることを明らかにした。ここでいう流体系とはナヴィエストークス方程式に従う極めて一般的な流体のことである。また反応拡散系とは化学反応と拡散が同時に生じる化学物質の系であり、こちらも理論的な一般性が高い。その結果、非平衡系におけるも熱力学的な制約が広く成り立つことが明らかになった。 流体における結果は K. Yoshimura and S. Ito, arXiv:2305.19519 として、反応拡散系における結果は R. Nagayama, K. Yoshimura, A. Kolchinsky, and S. Ito, arXiv:2311.16569 として公開済みである。
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