研究実績の概要 |
本年度は,結晶成長のメカニズムおよび成長が結晶多形選択性に及ぼす影響の解明を目指して検討を行った.我々の先行研究において,カーボンナノチューブ(CNT)をナノサイズのフラスコとする単分子原子分解能時間分解電子顕微鏡(SMART-EM)イメージング法によって塩化ナトリウム(NaCl)の結晶化を捉えることには成功していたが,結晶成長メカニズムを単分子レベルで議論するには時間分解能が不十分であった.そこで,SMART-EM法と高速撮像カメラおよび画像処理手法を組み合わせることで,NaCl結晶成長過程におけるミリ秒スケールの原子ダイナミクス解明に取り組んだ(M. Sakakibara et al., ACS Cent. Sci. 2022, 8, 1704.).その結果,従来の結晶成長理論では想定されていなかったダイナミックに結晶表面を動き回る“浮き島”状中間体の存在や器壁と振動によって結晶成長が加速される機構が明らかとなった.続いて,ナノフラスコ内に様々な無機化合物を導入してそれらの結晶成長過程をその場観察することにより,結晶サイズの増大に伴う結晶構造の変化を解析した.その結果,サイズ依存構造相転移の原子ダイナミクスを可視化することに成功し,さらに複数の化合物でナノサイズに特有と考えられる新奇構造を発見した.
|