研究課題/領域番号 |
22J21880
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
飴井 佳南子 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 浮遊性多毛類 / オヨギゴカイ / 種分化 / 外洋進出 / 海洋環境適応 |
研究実績の概要 |
本研究は浮遊性多毛類の全球的な種多様性を明らかにした上で、底生性多毛類からの進化や適応メカニズムについて議論することを目的としている。初年度は、まず本研究のサブテーマ①である浮遊性多毛類の分子系統地理の解明に着手した。東京大学大気海洋研究所で所蔵されている太平洋およびインド洋の広域にわたるサンプルのうち、現時点で計22測点からのソーティングが完了している。広域に優占していたのはオヨギゴカイ科 (Tomopteridae) であった。したがって、当初の予定で一般的な浮遊性多毛類として研究対象に設定していたユメゴカイ科 (Lopadorrhynchidae) よりも十分な個体数が得られたオヨギゴカイ科から解析を行った。形態と外洋への進化の関係を詳細に明らかにするため、顕微鏡下あるいは画像から疣足数や各形態サイズの測定も行った。Genbankおよび本研究でサンガーシーケンス法を用いて得られたミトコンドリアのCOI領域配列について相同性98%以上で定義された便宜的な種であるOTUは25にのぼり、インド洋の測点のみで見られたOTUはなかった。また、核DNAの28S領域やゲノムワイドな一塩基多型解析の結果は得られたOTUの境界を支持しており、オヨギゴカイ科はインド洋および太平洋で25種以上いることが示唆された。形態分類学に基づく出現報告であるTebble (1962) によれば、太平洋の北緯20度から60度にかけてオヨギゴカイ科はおよそ7種報告されている。本研究において同緯度帯に出現したOTUはすでに22にのぼり、本海域におけるオヨギゴカイ科のOTU数は現状把握される形態学的種数をはるかに超えていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、1年目に太平洋・インド洋サンプルの浮遊性多毛類の解析を完了する予定であったが、現在はオヨギゴカイ科を中心に解析を進めている。一方で2年目に予定していたハワイ大学における大西洋サンプルを解析の開始を初年度に変更した。ハワイ大学ではオヨギゴカイ科231個体を含む、浮遊性多毛類計573個体の選別を行った。このように初年度に大西洋サンプルの解析を開始することができたため、全体の進捗として考えれば、おおむね順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成果から以下の課題について特に注目して研究を進める。 【形態学的種と系統学的種】 浮遊性多毛類 (特にオヨギゴカイ科) の形態形質は固定保存時に非常に壊れやすく、現状の形態学的分類学が提示するkeyを用いた顕微鏡下の形態観察による種同定は非常に困難である。これまでの形態学的知見と本研究データのすり合わせを行うためには、参照配列として種同定済みの個体のDNA情報が必要不可欠である。船上で採集直後の浮遊性多毛類個体について種同定を行うことで参照配列の拡充を目指す。 【鉛直方向の種多様性】 浮遊性多毛類は広い水深範囲にわたり分布することが知られている。現在解析しているサンプルは非区分採集によって採集されたものであり、鉛直方向の多様性については議論することができない。本年度は乗船し、鉛直区分採集による調査を行うことによってこの課題を解決する。 【より詳細な種境界の探索・種内多様性の解明】 初年度の成果からオヨギゴカイ科のOTUの分布は局所的なものと広域のものに大別された。局所的な分布を示したのは特定の海洋環境に対する適応を反映しているものと考えられる。亜寒帯域および亜熱帯域をまたぐような広域分布を示したOTUについては、一塩基多型解析を用いて、詳細な種の境界探索や種内多様性解明を目指す。また、異なるクレードに属するあるいは異なる生態をもつ他の浮遊性多毛類の科について同様の解析を行うことで、多様なニッチを内包する浮遊性多毛類について多様化メカニズムはどのように異なるかを明らかにする。
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