研究課題
本研究は、トポロジカル超伝導体の一つである時間反転対称性の破れたカイラル超伝導状態の基礎的な理解を進めるため、一軸歪みとMHz帯の共振器を用いた磁場侵入長測定を組み合わせた測定と円偏波マイクロ波空洞共振器を用いた分光測定の開発を行い、カイラル超伝導の検証を行うことが目的であり、主な内容は(1) 一軸歪み下磁場侵入長測定装置の開発と測定, (2)円偏波マイクロ波空洞共振器の開発と時間反転対称性の破れの検出である。一年目である2022年度は(1)に関しては主に通常の磁場侵入長測定と装置の設計を行った。通常の磁場侵入長測定ではカゴメ格子系超伝導体CsV3Sb5に着目をし、測定を行った。この系は近年発見されたカゴメ格子系の超伝導体であり、大きな注目を集めている。特にこの系ではカイラル超伝導が発現する可能性が指摘されていた。これに対し、我々は磁場侵入長測定と電子線照射による不純物導入を組み合わせた手法を適用し、この系における超伝導状態が非カイラルのs波超伝導であることを報告した。(2)に関しては、本年度は円偏波空洞共振器の開発を行った。開発した円偏波空洞共振器を用いて強磁性共鳴のテストを行い、左右円偏波に対する選択的なマグノン-フォトン結合を観測した。また上記以外にも鉄系超伝導体Fe(Se,Te)における超伝導状態での時間反転対称性の破れを検証するため、カナダのブリティッシュコロンビア大学TRIUMFにてミュオンスピン回転緩和実験を行った。
2: おおむね順調に進展している
円偏波マイクロ波空洞共振器の開発に関しては当初の計画通りに進んでいる。今回開発した空洞共振器では実際にTE11nモードを用いた円偏波モードの生成を確認でき、4Kまでの極低温での測定を行うことができた。また、試料と空洞共振器の温度をそれぞれ独立してコントロールできるような機構も実装することができたため、今後はカイラル超伝導候補物質に対して測定を行えるよう、分解能の向上やより低温までの測定を行う予定である。一軸歪み下での磁場侵入長測定装置については設計を行ったものの、研究開始当初に想定していた方式のでは極低温下での実装が難しいことが分かったため、現在、新たな機構を考えている。また、以上の測定手法を適用するカイラル超伝導候補物質の研究として上述のカゴメ格子系や鉄系超伝導体における磁場侵入長測定やミュオンスピン回転緩和法などの実験からはそれぞれの超伝導に関する時間反転対称性の破れた状態に関する知見を得ることができ、特にカゴメ格子系は当初予測されていたカイラル超伝導状態ではないことを明らかにし、鉄系超伝導体Fe(Se,Te)では時間反転対称性の破れた状態が実現していることを明らかにした。
円偏波マイクロ波を用いた測定に関しては、実際に4Kまでの低温での測定を行うことができたため、今後はカイラル超伝導候補物質に対して測定を行えるよう、分解能の向上やより低温までの測定を行う予定である。一軸歪み下での磁場侵入長測定装置については新たな設計の見通しは立っていないため今後も検討を続けていく。また、一軸歪下での電気抵抗測定は既に行える状況であるため、そのような測定と組み合わせた超伝導対称性の研究を行うことも視野に入れている。また、我々のミュオンスピン回転緩和実験の結果から、新たに鉄系超伝導体Fe(Se,Te)での超伝導状態における時間反転対称性の破れも検証された。この系は超伝導転移温度が比較的高いことやトポロジカル超伝導候補物質の一つでもあることから、上述の方法によってこの物質における超伝導状態での時間反転対称性の破れについても調べる予定である。
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nature communications
巻: 14 ページ: 667
10.1038/s41467-023-36273-x
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/10067.html