研究課題/領域番号 |
22KJ1094
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
根岸 直輝 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | 経路積分法 / ピークブロードニング / 多参照多配置摂動論 / 参照相互作用点モデル / マルチスケールモデル / 溶液内電子スペクトル |
研究実績の概要 |
2023年度は2022年度に施行した電子スペクトル線を計算するために開発した理論についてまとめ、アメリカ化学会の国際雑誌Journal of Chemical Physics Bに出版した。またその過程の中で用いた多参照多配置波動関数摂動論のXMCQDPT2法をRISM-SCF-cSED法と融合させた計算手法を変分法的に導く理論的枠組みを与えた。ここで開発した理論では、溶質の周辺に配置されている溶媒が熱平衡状態に落ち着いている時を想定した溶質分子の自由エネルギー曲面を算出するためのLagrangianを定義した。定義されたLagrangianから変分方程式を導出した結果、出版論文で示したピークブロードニングを記述するための溶媒の熱揺らぎ効果を表す式が導出されることを示し、計算理論としての整合性を保証した。この成果は米国物理学会の国際雑誌Journal of Chemical Physicsに出版された。 上述の理論体系は、電子励起に伴う電子移動によって引きおこる溶媒構造の不安定化エネルギーがピークブロードニングに直結するという枠組みになっていた。一方で溶質側の構造変化に伴う溶媒構造の不安定化エネルギーを算出する計算理論も同様にRISM-SCF-cSED法に基づいて導出した。この方法では、溶媒配置が完全に緩和している状況を想定したエネルギー曲線を算出した後に、溶媒の密度分布関数からのずれと溶質分子の核配置の結合項を溶質の核座標に関して2次の項まで取り込む。これによって、これまで算出されてきた溶質の分子振動を表すヘシアン行列に溶媒の揺らぎの効果を加えることを可能にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度に開発した理論は、溶媒の熱揺らぎによって分子振動の自由エネルギーポテンシャルの平衡点及び曲率が乱雑に変化する様子を記述する。この描像は溶媒側の運動をすべて調和振動子と見立て、溶質溶媒間相互作用を振動座標の線形積で書くブラウン振動子モデルから得られる運動に合致するが、相互作用を電子状態レベルで精確に算出できる点において新規な枠組みとなっている。 この理論によって、溶媒に囲まれた溶質分子の振動ポテンシャルに溶媒の熱揺らぎ効果を組みこむことができる。即ち高温の固体に接触する前の溶質分子の熱運動は本理論を介したモデル化によって記述ができたことになり、最終目標である高温固体から反応分子への熱輸送の議論を進めていく上での土台が完成したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度はこのフレームワークを当てはめて、赤外吸収スペクトルやラマンスペクトルのピークブロードニングの計算を行う。計算が実験結果に合致することを確認することで、溶媒側の熱揺らぎの寄与が溶質分子の振動ポテンシャルの平衡点及び曲率の揺らぎとして組み込まれることの正当性を示す。その後は上述でモデル化された溶質分子を、2次元デバイモデルでモデル化された格子振動系と結合した系に関して、格子系が700 Kに熱せられた系の階層型運動方程式を運用する。これによって記述される溶質分子の熱化メカニズムを各振動モード毎のエントロピー増大の式から解析することで、分子振動状態の熱移動過程を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度における国際会議の発表及び、新しい計算機の発注に関して当該年度の予算内で完結できないことが懸念されたため、5万程度の繰越をすることにした。
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