研究課題/領域番号 |
22J22026
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田村 あずみ 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | バクテリオファージ / 合成 / O157:H7 / 食中毒 / 検出 |
研究実績の概要 |
バクテリオファージ(ファージ)を利用した細菌感染症の治療法はファージ療法と呼ばれ、薬剤耐性菌に対する抗生物質の代替として期待されている。また、ファージ療法の課題であるファージの限定的な溶菌効果や宿主域の狭さ等を解決するために、近年では合成ファージの研究が行われている。しかし、ファージの合成技術は確立しておらず、比較的汎用性の高い方法であっても扱えるファージのゲノムサイズは約50 kbまでである。そのため、簡便かつゲノムサイズの大きいファージにも適用可能なファージ合成方法が必要である。 そこで、2022年度はファージ合成系の確立に取り組んだ。安価かつ時間・手間のかからない方法として、in vitro合成系の確立を目指した。まず一般的によく用いられている大腸菌T7ファージ(約 40 kb)で合成方法の条件検討を行い、より効率の良い方法を模索した。その結果を元に、腸管出血性大腸菌O157:H7に感染するファージ(約70 kb)の合成を行ったところ、O157ファージを迅速かつ容易に合成することができた。合成O157ファージは天然ファージと同等の溶菌活性を有していた。 次に、遺伝子改変としてO157ファージにタンパク質タグを載せ、O157:H7の検出を行った。この時、タグを付加する標的タンパク質を複数箇所選び、検出感度を比較した。Tail fiber proteinにタグを付加したファージで検出感度が最も良く、1 CFU/mLのO157:H7も最短7時間で検出することができた。また、臨床分離株に対しても、O157:H7を特異的に検出することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ファージin vitro合成方法の条件検討により、既報の合成ファージよりゲノムサイズの長い(約70 kb)ファージを効率良く合成することに成功した。また、タンパク質タグを載せた合成O157ファージは、O157:H7の検出において高い感度と特異度を示した。少量、短時間、簡易にO157:H7を検出できるため、大量の検体をスクリーニングすることが可能であると言える。さらに、本研究で用いた合成及び検出方法は、他の病原菌ファージに対しても容易に応用できると考えられる。 一方で、より大きいゲノムサイズのファージにも適用できるよう、合成方法をさらに改良していく必要がある。また、本研究ではファージの宿主域改変を目指しているため、今後はファージ尾部の組換えにも取り組む必要がある。 以上の理由から、本研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後もファージ合成方法の条件検討を続け、ゲノムサイズがさらに大きいファージにも適用できるような自由度の高い合成方法の確立を目指す。また、ファージの宿主域改変にも取り組む。まずは類似しているファージの間で宿主認識に関与するタンパク質を交換し、宿主域を転換する。続いて類似性の低いファージ間で宿主域の転換を行う。 さらに、メタゲノム情報から得られたファージゲノムのうち、薬剤耐性菌感染症を引き起こす腸内細菌に感染するファージのゲノム情報を収集する。そこから、ファージの宿主認識に関わるタンパク質(尾部タンパク質)の配列を特定する。目的のファージの宿主認識部位について配列情報を取得できたら、ファージ合成技術を用いて既存のファージの宿主認識部位と交換し、ファージの溶菌活性を調べる。
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