研究課題/領域番号 |
22J22457
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松本 将平 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 証言の認識論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ある人が他者の証言に基づいて信念を形成することが認識的に正当化されるためにはどのような条件が成立している必要があるのかの特定である。本研究の1年目である令和4年度は、我々は他者の証言を信じることに関してデフォルトで正当化されているとする、証言的正当化に関する反還元主義という立場の擁護可能性を検討した。近年では、たとえ聞き手が話し手の信頼性を見分ける能力を持っていなくても、またその証言がどのような状況下で誰によって提示されていようとも、聞き手が話し手の証言を疑うべき理由を持たない限りは常にその証言を信じることが正当化されるとする「強い反還元主義」がMona Simionらによって擁護されている。本年度は強い反還元主義者の論拠を詳細に検討し、その議論の不十分な点の明確化を行った。具体的には、Simionらが主張する「虚偽の発話を禁止するような社会規範が存在するがゆえに我々は極めて強いインセンティブがない限り嘘をつこうとしない」という見解が、会話的推意を用いて間接的に情報を伝達する場合に単純に適用することはできないということを指摘した(学会発表「Mona Simionによる強い反還元主義擁護の懸念点について ―会話的推意の否認可能性の観点から―」)。また、強い反還元主義者は話し手の信頼性が低いような会話の状況においても聞き手は話し手の主張を信じることへのデフォルトの正当化を持つと認めなければならず、しかしなぜそのような見解を採るべきなのかに関する十分な説明は与えられていないということを明らかにした(学会発表“Defaults for Speakers and Hearers: A Critique of Strong Social Anti-reductionism”)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文の投稿はまだできていないものの、二回の学会発表を通して昨年度の研究成果を発表することはできた。また、近年の強い反還元主義者の議論の批判を通して、偽な証言の流通を阻害するような社会のシステムが正常に機能している文脈においてはデフォルトの正当化が生じるという見解の擁護可能性に思い至り、そのための論証を組むためのサーベイを行うことができた。それにより、来年度行う予定であった、証言の生じる文脈と証言を信じることの許容可能性との関係を明確化するという課題の準備作業がある程度進んでいる。総合的に判断すると、現在の進捗状況はおおむね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究を踏まえて、聞き手が話し手の証言を信じることについて常にデフォルトの正当化を持つわけではないものの、偽な証言の流通を阻害するような社会のシステムが正常に機能している文脈においてはそのようなデフォルトの正当化が生じるという反還元主義的見解を擁護できると見込んでいる。そのために、まずは従来の反還元主義的立場の問題点の整理を継続する。この課題については、現在既に論文を書き進めているところであり、完成ししだい国内外の研究者に共有し意見交換を行うとともに、論文雑誌に投稿する予定である。次に、偽な証言を減らす社会的要因を調査することで、証言の信頼性が担保される社会的条件を特定し、社会システムの機能に注目した反還元主義的立場を実際に構築する。
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