研究課題/領域番号 |
22KJ1140
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤澤 雄太 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | 自己修復材料 / 持続可能性 / プラスチック / ポリマーブレンド |
研究実績の概要 |
プラスチックは私たちの生活に欠かせない材料である。しかしながら、プラスチック製品の大量生産・大量消費・大量廃棄とそれに起因する環境汚染は、持続可能な社会の実現において看過できない課題である。この課題に対する有効な解決策の一つは、プラスチック製品の長寿命化である。プラスチック製品の破損は継続的な振動などに起因する内部構造に生じた無数の微細な損傷が蓄積していくことで起こる。自己修復性樹脂材料は自発的に損傷を修復することができ、長寿命な材料としてプラスチック材料を代替することが期待されている。当研究室は2018年に、機械的に堅牢でありながら室温での修復が可能な世界初の樹脂、ポリエーテルチオ尿素を開発した。機械的な堅牢さは高密度で非線形な水素結合に、室温での修復はエーテルリンカー上の酸素原子が水素結合の組み替えを促進することによる鎖の相互貫入に起因する。さらに2023年には、溶融しない限り損傷を修復できないポリアルキルチオ尿素に自己修復性のポリエーテルチオ尿素を少量ブレンドするだけで、ポリアルキルチオ尿素の長所である疎水性を維持しつつ、室温での自己修復性を付与することに成功した。詳細な実験から、双方の長所が維持されたのは、両者がナノスケールで相分離を起こしているからであると結論づけた。この実験結果に基づき、私は自己修復性樹脂をブレンドすることによる身の回りで用いられている汎用樹脂への自己修復性の付与を目指した。一般的に、異種の樹脂同士をブレンドしても、大きな界面エネルギーによって両者は致命的な機械強度の低下につながる巨視的な相分離を起こしてしまう。そこで、汎用樹脂と自己修復性樹脂の間の界面エネルギーを低下させる相溶化剤として設計した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
汎用樹脂と自己修復性樹脂の間の界面エネルギーを低下させる相溶化剤として、(i)主鎖に汎用樹脂に由来する構造を有し、側鎖に自己修復性樹脂に由来する構造を有する重合体/共重合体、(ii)自己修復性樹脂の両端から汎用樹脂を重合することにより得られるブロック共重合体、を設計した。戦略(i)において、側鎖の長さや末端の分子構造、側鎖を有するモノマーと側鎖を有さない汎用樹脂由来のモノマーの共重合比、各樹脂間のブレンド比などを様々に変えてみたが、いずれも巨視的なスケールでの相分離が観測され、望み通りの物性を与えることができなかった。戦略(ii)を遂行するためには、自己修復性樹脂の両端に、ラジカル重合によって汎用樹脂を重合するための起点となる分子構造を付与する必要がある。その過程で、モデル反応では高効率で進行した反応が実際の自己修復性樹脂を用いた際にうまく進行しないということがわかった。質量分析などから得られた情報を踏まえ、直鎖状の自己修復性樹脂ではなく末端を持たない環状の化合物が得られている可能性が浮上した。上記2本の報告では反応中に脱離基を生じる縮合重合でポリエーテルチオ尿素を用いていたが、進めていた研究テーマにおいては、ごく微量に残存する脱離基由来の着色が課題となるため、無色の原料を用いて脱離基を生じない付加重合によって目的ポリマーを得ようとしていた。用いる反応を代えたことによる発見である。反応条件によって環サイズの分布を調節することも可能で、現在は環サイズごとに生成物を分離し、それぞれの性質を調べることができないか試みている。
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今後の研究の推進方策 |
通常、環状化合物の合成は、ある直鎖状の化合物の片方の末端ともう片方の末端が系中で出会い、反応する必要があるため、収率が非常に低いことが知られている。そのため、溶液の濃度を低くすることで同一化合物内での反応を促したり、金属イオンなどをテンプレートとして合成を行ったりするなど工夫が必要である。しかし、私たちの系では、非常に高収率で化合物が得られ、いくつかの実験結果からそのほとんどが環を形成していると考えられる。材料科学において、大量に合成することが難しいために、環状化合物の物性に対する寄与を明らかにすることは挑戦的な課題である。これまでに反応条件を変えることで、今までは樹脂様の固体が得られていたところが、かなり高温度まで溶融しない粉末状の固体が得られた。GPCによる環サイズごとの化合物の分離と質量分析により、粉末状の固体は樹脂様の固体に比べて環サイズの小さな化合物で構成されていることがわかった。まずはGPCにより環サイズごとの化合物への分離、収集法を確立し、それぞれの環サイズによる熱的物性、結晶性等の基本的な物性の測定を行う。成型加工が可能であれば、環サイズごとの化合物での機械的物性や粘弾性の評価を行い、直鎖状ポリマーとの違いを明らかにする。また、混合物とした時の物性、もしくは直鎖状ポリマーと混合した時の物性を評価することで、環状化合物特有の物性、もしくは環状化合物が樹脂中でどのように物性に寄与するかを精査していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度時点で決定していた今年度分の海外渡航の旅費として利用するため。
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