研究課題/領域番号 |
22J00136
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長江 拓也 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 種間不和合 / 植物生殖 / 花粉管発芽 / アブラナ科 / シロイヌナズナ / 花粉 / 雌しべ / 柱頭 |
研究実績の概要 |
生物は同種間で有性生殖を行うことにより多様な子孫を残す。被子植物においても、「種間不和合性」という仕組みが存在することで異種よりも同種と優先的に生殖を行うことができる。被子植物は、雄の細胞である花粉管が雌しべの柱頭上で花粉から発芽する必要がある。近年、この柱頭上での花粉管発芽段階において、遠縁種花粉を拒絶する雌側因子SPRI1が同定された。一方で、SPRI1は近縁種花への拒絶効果は低いことから、柱頭は付着した花粉種によって複数の「種間不和合性」の仕組みを使い分けていると考えられるが、その全体像は未だ不明である。また、花粉内でどのような生理的変化が起こることで花粉管の発芽・伸長抑制が生じるのか、柱頭組織での異種抑制機構がなぜ同種花粉管には作用しないのかについても不明である。本研究では、これらの課題をアブラナ科植物のシロイヌナズナArabidopsis thalianaとその近縁種セイヨウミヤマハタザオArabidopsis lyrataを主に用いながら下記の実験を行うことで、雌しべ柱頭が多数の異種花粉から同種花粉を選択的に受容する仕組みの解明を目指す。 ①雌しべ柱頭上で花粉が受容および排除される時の花粉細胞内動態の定量 ②セイヨウミヤマハタザオ亜種間の遺伝子多型を用いたQTL解析による責任因子の探索 ③ゲノムワイド関連解析(GWAS)を用いた「種間不和合性」を生み出す新規花粉因子同定 ④柱頭の分泌シグナルに着目した近縁種間での「種間不和合」現象の解析
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、①雌しべ柱頭上での花粉管動態を観察するための条件検討、②セイヨウミヤマハタザオ亜種間の表現型差を利用したQTL解析の準備、および③GWAS解析に向けた表現型取得を行った。 ①雌しべ柱頭上での花粉管動態を観察するための条件検討|花粉管発芽時の細胞内動態は、培地上での培養条件下で解析が進んでいる一方で、雌しべ柱頭上で詳細に観察されたことはない。従って、柱頭上で花粉が受容・拒絶された場合にどのようなイベントが細胞内で起こっているのかも明らかになっていない。そこで、柱頭上花粉の細胞内動態のイメージング系の確立を目指した。アクチンを可視化するLifeAct-mNeonGreenを用いて観察を行った結果、花粉管発芽直前から発芽部位にこれらの蛍光が集積することが分かった。 ②セイヨウミヤマハタザオ亜種間の表現型差を利用したQTL解析の準備|これまでにセイヨウミヤマハタザオの亜種petraeaの雌しべ柱頭上では、シロイナズナCol-0系統の花粉管は発芽するが、セイヨウミヤマハタザオの亜種lyrataの雌しべ柱頭上では、花粉管を発芽しないことを見出している。この亜種間での表現型差を利用したQTL解析を行う。現在までに、亜種間交雑したF1個体の雌しべ柱頭ではCol-0系統の花粉管は発芽できること、F1個体と亜種lyrataを交雑したBC1F1個体では多くの個体ではF1個体と同様にCol-0花粉管が発芽できるが、一部個体では発芽できないことが明らかとなった。 ③GWAS解析に向けた表現型取得|さまざまなシロイヌナズナの系統をセイヨウミヤマハタザオ雌しべ柱頭に授粉して花粉管発芽の有無を比較することでGWAS解析を行う。現在までに10系統の解析が完了した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、上記研究を引き続き行い、花粉管受容・拒絶時の花粉細胞内動態の比較観察および花粉管発芽の種間不和合に関わる雄側・雌側因子の同定を目指す。 ①雌しべ柱頭上で花粉が受容および排除される時の花粉細胞内動態の定量|昨年度は花粉管が受容する条件で花粉細胞内動態の観察を行った。本年度は本系を花粉を拒絶するセイヨウミヤマハタザオ亜種lyrataで用いた場合にどのような違いが見られるのかを検証する。 ②セイヨウミヤマハタザオ亜種間の表現型差を利用したQTL解析|現在、BC1F1個体と亜種lyrataを交雑したBC2F1個体を作出しており、表現型解析を進めている。今年度はさらにBC3F1個体を作出し、本世代の植物体を用いたQTL解析を行い雌しべ因子の同定を行う予定である。 ③GWAS解析を用いた「種間不和合性」を生み出す新規花粉因子同定|本年度はセイヨウミヤマハタザオ亜種lyrataおよびpetraeaの雌しべに対してシロイナズナ約100系統を用いた表現型観察を行う予定である。本データをもとにGWAS解析を行い、花粉因子の同定を目指す。 ④柱頭の分泌シグナルに着目した近縁種間での「種間不和合」現象の解析|雌しべ柱頭はさまざまなシグナルを分泌することによって花粉管の発芽を制御することが明らかとなっている。そこで、花粉発芽培地中に亜種lyrata柱頭および亜種petraeaからの滲出液を含ませ、シロイヌナズナ花粉の発芽率を測定する。もし花粉管発芽率に違いが見られた場合は、滲出液を大量にサンプリングし、ゲルろ過法や限外ろ過法によって分画する。分画サンプル毎に活性を評価することで、活性分子の分子量を特定する。その後、質量分析等を用いて原因分子の構造を推定し、活性分子がタンパク質の場合は申請者が修得済みの昆虫細胞タンパク発現系を利用して、花粉管発芽抑制効果を確認する。
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