研究課題/領域番号 |
20J20910
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 隆洸 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 数値流体力学 / ポアソン方程式 / ディープラーニング / 畳み込みニューラルネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究では,数値流体力学において反復計算を要し計算コストの高い圧力ポアソン方程式の高速化のため,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を組み合わせた手法を開発することを目的とする. 今年度では,等間隔直交格子におけるポアソン方程式を対象として,CNNによる高速化手法の適用範囲の拡張を試みた.主な改善点は以下の2点である. (1)CNNにおける最小化の対象である損失関数にポアソン方程式の情報を組み込むことで,損失関数のみで方程式をどの程度満たしているか評価でき,圧力の正解データを用いない学習が可能となった.これにより,計算コストの高いポアソン方程式の解を大量に用意する必要がなくなり,学習に要する時間が大幅に短縮された. (2)出力変数として圧力に加えて圧力勾配を用いた.圧力のみを出力とする場合には,解に一様なバイアスを与えたものも解となる問題があったが,圧力勾配の導入により解の一意性が担保された.また,CFDに多く現れるノイマン境界条件を容易に扱えるようになり,境界条件をCNNの入力データとして用いることで,任意の境界条件における問題を解くことが可能となった. ノイマン境界条件が与えられたポアソン方程式において推定精度を検証した結果,反復解法による収束解を高精度に再現できることが確認された.一方で,CNNによる推定解にはノイズ状の誤差がみられ,問題の格子点数が増加するにつれて長波長の残差が大きくなることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度はCNNを用いたポアソン方程式の高速化手法の汎用性を高めるため,(1)出力変数としての圧力勾配の導入による解の一意性の担保,(2)複数の異なる境界適合格子を扱えるCNNモデルの構築の2点に取り組んだ.それぞれの進捗は以下の通りである. (1)圧力および圧力勾配を出力変数としたCNNモデルを構築し,学習済みのCNNモデルを用いてポアソン方程式の解を反復計算なしに推定できることを確認した.CNNの学習において損失関数の値が収束し,かつ推定誤差のばらつきが十分に小さいことから,圧力勾配の導入により目的としていた解の一意性が実証された. 当初は予め用意した大量のポアソン方程式の解によりCNNの学習を行う予定であったが,損失関数に方程式の情報を組み込んだCNNモデルでは,ポアソン方程式の解を必要とせず,学習に用いた入力データの範囲内で任意の問題を解くことができる点で計画を上回る成果を得ることができた. (2)CNNモデルを境界適合格子へ拡張する際に,等間隔直交格子から境界適合格子へ変換するための座標変換の微係数(メトリック)を導入する必要がある. 現状において,メトリックの入力データとしての扱い方,安定的に損失関数を収束させる学習方法の問題が解決できておらず,当初の目的は達成されていない.加えて,周期境界条件の有無によって損失関数の処理が異なることが分かった.よって,あらゆる構造格子の問題を1つのネットワークで解くという方向性を見直す必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
次年度では,CNNによる高速化手法の適用範囲の拡張に加えて,実際にCFDに組み込むための検証を行う. 等間隔直交格子によるCFDでは次のステップとして,CFDのベンチーマーク問題等を用いたより実践的な検証を行う.解決すべき課題点および対策は以下の2点である. (1)解くべき問題の格子点数を増やすにつれて長波長の残差が増加することが分かっている.格子点数の大きな問題を扱うための対策として,これまで未検討であったネットワーク構造,特に畳み込み層の解像度と推定精度との関係に注目して改善を試みる. (2)CNNでは反復計算を用いないことから,推定結果にノイズが生じる.CNNを圧力解法として使用する場合には,ステップ毎にノイズが増幅し計算の発散につながる危険性がある.そこで,安定的なCFDの計算のために必要なCNNの推定精度について調査する. 境界適合格子によるCFDでは,引き続きメトリックの扱い方と安定的な学習方法について改善を試みる.今年度の結果を踏まえ,はじめに1つの計算格子のみに対応したネットワークを構築し,複数種類の計算格子に対してそれぞれCNNへの適用の可否について検証を行う.次に,可能であれば適用できるな範囲内で複数の異なる格子を扱えるネットワーク構造についての検討を行う.また異なる方向性として,1つの格子で任意の物体形状を扱うことのできる埋め込み境界法への応用について検討する.
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