研究課題/領域番号 |
22J00707
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
小島 和華 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | オートファジ― / 隔離膜 |
研究実績の概要 |
本研究は、申請者が先行研究において同定した新規オートファジー関連因子:BCAS3-C16orf70複合体の機能解析を主軸として、哺乳類オートファジーにおける「進化的に新しく獲得された機能因子」がファインチューニング因子として重要な意義を持つメカニズムを解き明かすことを目的としている。 オートファジーは、細胞内で機能不全となった細胞小器官やタンパク質の凝集体などの不要物を分解するシステムである。このシステムにおいて分解対象物は、隔離膜という脂質二重膜に包まれる。基本的なメカニズムは酵母から哺乳類まで生物種間で共通しており、隔離膜の生成開始に働く因子や膜の伸長に必要な因子など、多くのオートファジー必須タンパク質の進化的保存性も高い。その一方で本研究では、単純に培養細胞で遺伝子欠損させてもオートファジーの進行に影響が出ないような非必須因子、つまり進化的保存性の低い因子に焦点を当て、それらが進化的に獲得されてきた重要性を明らかにしたい。 申請者が新規オートファジー因子として同定したBCAS3-C16orf70は、哺乳類オートファジーにおいて隔離膜に局在することがわかっているものの、その分子機能は未だ明らかではない。本年度は研究計画にも示した通り、モデル生物を用いた解析、および、アミノ酸配列情報からのタンパク質立体構造予測に取り組んだ。他大学の研究グループとのクローズドなディスカッションの他、国際オートファジー学会でのポスター発表、日本生化学会シンポジウムでの口頭発表を行い、国内外の研究者との意見交換を行った。BCAS3-C16orf70の機能解析という目的の達成に向けた基盤を構築できたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で対象とするような知見の少ない新規因子の場合、タンパク質の立体構造を知ることは、その因子の機能の推測に有効である。ヒト、および、ヒト以外のモデル生物種のBCAS3とC16orf70のホモログタンパク質について、タンパク質立体構造予測ツールであるαFold2を用いてアミノ酸配列から立体構造を予測した。 ヒトBCAS3については、申請者自身の先行研究において、既知の類似構造タンパク質とのホモロジーモデリングからオートファジーにおいて重要となる機能領域を同定していた。αFold2を用いて導き出された予測構造は既に予測していた構造とほぼ一致しており、さらに他モデル生物種のBCAS3ホモログについても、アミノ酸配列の相同性が低い場合であっても、オートファジー機能ドメインの立体構造は良く保存されていることがわかった。また、BCAS3の相互作用パートナーであるC16orf70の立体構造はこれまでアミノ酸配列からの構造予測が難航していたが、αFold2の活用によって予測することができ、複数のモデル生物におけるホモログ間で、その構造が類似していることが示唆された。 BCAS3とC16orf70がオートファジー因子として機能する際には、二者の立体構造を介した複合体形成が必須であることが明らかになっているため、BCAS3とC16orf70の構造の保存性はすなわち機能の保存性としても捉えられる。哺乳類オートファジ―を扱う本研究において哺乳類モデル生物を用いた解析は不可欠であるため、本年度よりBCAS3遺伝子欠損マウスの作製を始めている。それと並行して「BCAS3-C16orf70の複合体としての関係性が保存されていることが予測できる」哺乳類以外のモデル生物種を用いた機能解析のため、外部研究室との共同研究を始めた。
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今後の研究の推進方策 |
申請者が先行研究において同定したBCAS3-C16orf70複合体は、哺乳類オートファジーにおいて明確な隔離膜局在を示すものの、システムの進行に必須ではない。このような、遺伝子欠損だけでは明らかな表現型が現れにくい調整因子の機能解析には、試験管内実験系や培養細胞系を用いた実験、モデル生物を用いた実験等、幅広い手法を用いた解析が必要となる。次年度以降は、BCAS3およびC16orf70の全身遺伝子欠損マウスおよび組織特異的遺伝子欠損マウスの作製・解析を引き続き進める。また、マウス以外のモデル生物種の解析を得意とする外部研究室との共同研究を並行して行う。 さらに、BCAS3-C16orf70複合体に含まれ、複合体の安定化やオートファジー機能のON/OFFに係る可能性のある他の因子を質量分析によって探索する。所属研究室が得意とする、損傷を受けたミトコンドリアを選択的に分解するオートファジーを誘導する実験系を利用する他、ヒト疾患に関連したオートファジーを誘導する実験系を新たに確立し、哺乳類培養細胞を用いてBCAS3-C16orf70複合体、および同定した新たなオートファジー関連因子の機能解析を行う。
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