採用期間全体を通じ、ロシア・アヴァンギャルドにおいて「有機的潮流」が形成されてきた土壌について調査しつつ、フレーブニコフのテクスト分析を行うという二本立てで研究を進めた。初年度は「有機的文化」の中心的人物であるM. マチューシンや彼の直接の弟子たちを中心に調査しつつ、20世紀初頭における自然科学と哲学・芸術との接点について多角的に考察することを試みたが、今年度はロシアのコスミズムの伝統と深く関わる芸術家や、その思想的基盤について資料を集め研究を進めることができた。そうした中で、フレーブニコフに基づいた作品も複数手掛けている作曲家・哲学者V. マルティノフ(1946-)の創作や思想に見られるように、「有機的潮流」は現在もなお形を変えつつ発展し続けているということも明らかになった。 また、情勢上の理由でロシアへの渡航は叶わなかったものの、ウズベキスタンのタシケントおよびヌクスにて資料収集を行い、東洋の哲学・神話との関わりという観点からフレーブニコフを論じたP. タルタコフスキ―の著作や、その他ロシア・アヴァンギャルド芸術関連の資料にあたることができた。 フレーブニコフのテクスト分析においては、今年度はとくに「楽器」のモチーフに注目した。というのも、フレーブニコフの作品において「楽器が音を発する」ということは、しばしば世界の定められた運命が実現されていくことを象徴し、それがやがて、「万物が共鳴し合い、その総体として律動する宇宙」という、「有機的潮流」の根幹をなす考え方に関わってくるからである。なおこの内容は、日本ロシア文学会全国大会にて発表予定であったが、体調不良により参加辞退となったため、楽器そのものよりも物理現象としての「音」「振動」にフォーカスした形で、論文『震える宇宙:V.フレーブニコフにおける「弦」と「振動」のモチーフ』にまとめ直した。
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