研究実績の概要 |
川端の舞踊観劇体験や舞踊文化への知見がいかに文学テクストに反映しているか調査した2022年度の研究は、主筆研究論文1本と国際学会発表1回のなかで研究実績として発表した。 執筆した論文、熊澤真沙歩「川端康成『花のワルツ』における日本化したモダンダンス「びつこの踊」」(『跨境 日本語文学研究』第15号, pp.181-197, 2022年12月,査読あり) でまとめた研究は、PCL(後の東宝)の映画シナリオ用に書かれた舞踊小説「花のワルツ」を川端が観劇した舞踊公演や、石井漠、高田せい子、梅園龍子など交流があったダンサーなどの同時代的背景を調査し、舞踊文化状況をテクスト読解に代入した新しい視野をもつ論文として国際電子ジャーナルに掲載された。 熊澤真沙歩「川端康成『舞姫の暦』―浅草/銀座のモダン都市文化と舞踊―」(第6回東アジア日本研究者協議会国際学術大会「次世代発表」, 北京外国語大学主催Zoom開催, 2022年11月4-6日査読あり, 日本語 )という題目で発表した研究内容は、注目されることのすくなかった中編小説『舞姫の暦』のコンテクストとして、銀座のデパート文化、そしてモダンダンスと日本舞踊の接合する1935年前後の舞踊文化を掘り起こしたものである。プロットやキャラクター造形に、欧米追従型のモダンダンスではなく伝統的民族舞踊をアップデートして国内外から賞賛を集めた崔承喜、そしてバレエやモダンダンスのエッセンスを盛り込んで「新舞踊運動」を牽引し西洋舞踊の勢いに押されていた日本舞踊に新風を巻き起こした藤陰静枝など、実在した伝説的舞踊家の輝かしい影が見え隠れする点を、川端文学と舞踊文化をクロスオーバーする本研究が発見した2022年度の新しい成果として提起した。
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