研究課題
本研究では,近縁外来種からの繁殖干渉が,在来種の花の多型の維持・消失や自家受粉による繁殖の進化におよぼす影響を明らかにすることを目的とする。カタバミは国内では2タイプの花型が存在し(等花柱型と長花柱型),また,平野部では等花柱型と近縁外来種のオッタチカタバミが同所的に生育する。これまでの研究から,等花柱型は,在来・外来の混合花粉を受粉しても同種花粉が優先して受精していたため,外来種からの繁殖干渉を回避できると考えられる。一方,長花柱型は平野部に見られず,外来種からの繁殖干渉を強く受けている可能性がある。この仮説を検証するため,(1)野外では,長花柱型と外来種が同所的に生育,繁殖するのか,(2)野外の長花柱型は,等花柱型よりも外来花粉を受粉しやすく,繁殖干渉を受けやすいのか,(3)長花柱型では同種交配が優先されるのかを,野外調査と実験により明らかにする。(1)野外における在来種カタバミと外来種オッタチカタバミの開花フェノロジーの調査を行ったところ,海岸域では長花柱型と外来種が同所的に生育することが明らかとなった。(2)外来花粉の受粉しやすさに及ぼす影響を調べるため,在来種と外来種の栽培株を用いた配置実験を実施し,在来種が形成した種子のうち雑種種子の割合を調査する予定であった。しかし,予備実験の結果,同所集団の在来種は外来花粉を受精しにくいことが判明したため,実験計画を変更し実施しなかった。(3)5集団から採集した在来種を胚珠親とし,混合花粉(在来+外来)を受粉させる交配実験を行った。形成された種子は発芽させたのち,実生の遺伝子型から雑種判定を行った。その結果,花型によらず,同所集団の在来種は外来花粉によって同種交配が阻害されやすいことが明らかとなった。
3: やや遅れている
開花フェノロジーの調査は,林道の通行止めにより一部集団でデータが取れなかったものの,当初計画していた9集団のうち8集団で調査を進めることができた。また,当初計画していた栽培株の配置実験は,研究計画の変更により実施しなかった。しかし,追加で行なった混合花粉交配実験により,在来種は外来種との同所性の有無によって,外来花粉を受粉したことによる同種交配への影響が異なるという興味深い結果が得られた。しかし,野外において,在来種の形態変異と外来花粉の受粉しやすさの関係については依然として確かめられておらず,今後検証を進める必要がある。
開花フェノロジーについては,複数年に渡るデータを収集するため,今後も継続して行う必要がある。混合花粉交配で得た子孫の雑種判定はサンプル数が限られるため,追加で実験を行う。また,野外における在来種の形態変異と外来花粉の受粉しやすさの関係を解析するための方策を検討する。
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Plant Species Biology
巻: 37 ページ: 349-360
10.1111/1442-1984.12387