研究課題/領域番号 |
21J01067
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
福岡 拓也 東京農工大学, 大学院農学研究院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ウミガメ / 海洋プラスチックゴミ / 残留性有機汚染物質 / プラスチック添加剤 / 生体内蓄積 / 血液栄養分析 / 化学分析 |
研究実績の概要 |
小笠原諸島父島、伊豆諸島御蔵島、三陸沿岸域の3地点で野外調査を行い、アオウミガメとアカウミガメ(三陸沿岸域のみ)の排泄物・消化管内容物の収集および採血を行った。加えて、各海域で彼らが摂餌している餌生物や漂流・漂着している海洋プラスチックゴミを収集した。排泄物・消化管内容物分析と安定同位体比分析の結果、御蔵島のアオウミガメは植物食傾向の強い雑食、小笠原と三陸のアオウミガメは雑食、アカウミガメは肉食という食性の違いが確認された。このうち、御蔵島の個体の食性は従来の完全な植物食ではないことが初めて示唆された。また、海洋ゴミの誤飲量(誤飲頻度・重量)は雑食である小笠原と三陸のアオウミガメでは特に多くのゴミを誤飲し、御蔵島の個体や三陸のアカウミガメでは誤飲量が比較的少ないという先行研究に矛盾しない結果が得られた。一方で、血液を使った栄養分析では、海洋ゴミ誤飲量の多い三陸のアオウミガメの方が誤飲量の少ない御蔵島の個体に比べて良好な栄養状態であることが示唆されるなど、海洋ゴミの誤飲量と地域間で明確な関連性は見られなかった。しかし、同じ海域内では海洋ゴミ誤飲量と栄養状態に負の相関がみられる血中成分もあった。 以上の成果は、絶滅が危惧されるウミガメ類の海洋ゴミ誤飲問題に関して、多角的なアプローチによる影響評価に寄与するとともに、令和4年度以降に予定している有機汚染物質の蓄積量をウミガメ類、餌生物、海洋ゴミにおいて測定する必要性を示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和3年度は、小笠原諸島父島、伊豆諸島御蔵島、三陸沿岸の広い範囲で操業する漁業者の協力を得て、研究対象種であるウミガメ類を収集し、生存個体からは採血や排泄物、死亡個体からは臓器や消化管内容物の収集を行った。その後、消化管内容物・排泄物分析、血液を用いた安定同位体比分析や栄養分析を行うことで、海洋プラスチックゴミの誤飲頻度や栄養状態が種間や地域間で大きく異なることを発見した。 ここまではほぼ想定内の進捗であったが、投稿した論文がMarine Pollution Bulletinに受理され、その成果が各種メディアで広く紹介されたのは想定以上の進捗であった。野生のウミガメ類における海洋プラスチックゴミ誤飲量と栄養状態の関係はこれまで十分に議論されてこなかったテーマであり、海洋ゴミ問題と絶滅が危惧されるウミガメの保全の双方に重要な知見をもたらすものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は小笠原諸島父島、伊豆諸島御蔵島、三陸沿岸で野外調査を行い、ウミガメ類の血液、臓器、消化管内容物、排泄物、餌生物と、海洋を漂流するプラスチックゴミを収集することができた。加えて、消化管内容物・排泄物分析、血液を用いた安定同位体比分析と栄養分析によって、各種・地域における生態情報や海洋プラスチックゴミ誤飲状況を把握することができた。本年度は、本研究の中核をなす血液や臓器を用いた残留性有機汚染物質やプラスチック添加剤の測定を行い、これらの汚染物質がウミガメの体内に蓄積されているのかどうかを調べる。また、昨年度までに分析した生態情報や海洋ゴミの誤飲状況と照合して、ウミガメ類における海洋プラスチックゴミ誤飲問題を多角的(プラスチックゴミ誤飲量と汚染物質蓄積量の関係、汚染物質蓄積量と栄養状態の関係、食性や回遊生態といった生態情報と汚染物質蓄積量の関係等)に考察する。 加えて、御蔵島と三陸沿岸域で野外調査を引き続き行い、不足している餌生物サンプルの収集とともに経年変化の確認を目的としたサンプル収集を行う。
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