伊豆諸島御蔵島、三陸沿岸域の2地点で野外調査を行い、アオウミガメとアカウミガメの排泄物・消化管内容物の採集および採血を行うとともに、彼らの餌生物、漂流・漂着している海洋ゴミを採集した。安定同位体比分析の結果、三陸沿岸域のアオウミガメは御蔵島の個体よりも栄養段階が高く、クラゲ類などの動物質への依存度が高いという種内での地域差があることが判明した。令和4年度から分析を開始したウミガメ生体内の有機汚染物質(ポリ塩化ビフェニル類:PCBsおよびベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤:BUVSs)の測定を引き続き行った。令和5年度は脂肪組織に加えて血液組織の分析も進めた所、残留性有機汚染物質であるPCBsは脂肪、血液ともに全ての個体から有意に検出され、この物質の使用が禁止されて半世紀以上たった現在でも生物体内に残留していることが示された。また、PCBsの濃度を地域間で比較すると、栄養段階が高いために生物濃縮が考えられた三陸沿岸域の個体よりも、御蔵島の個体の方がやや高濃度を示しているという興味深い結果が得られた。一方で、プラスチック添加剤としても使用されるBUVSsは脂肪組織から種や地域を問わず多くの個体から有意に検出され、散発的に高濃度を示す個体もいた。BUVSsはプラスチック製品でも散発的に高濃度であることが知られていることから、今回見つかった散発的に高い濃度を示す個体は、プラスチック製品を介してBUVSsを蓄積している可能性がある。また、BUVSsはPCBsとは異なり、種間や地域間での明確な差が確認されなかった。この結果は、両物質の曝露経路が異なることを示唆している。 以上の成果は、絶滅が危惧されるウミガメ類の海洋ゴミ誤飲問題に関して、非致死的な悪影響の評価に寄与するとともに、今後の定期的なモニタリングによって経年的な変化を確認する必要性を示すものである。
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