研究実績の概要 |
哺乳類は母乳で仔を育てるという戦略を選択してきたため、他の生物に比べ親と仔の繋がりが強く、仔の発達において哺乳養育環境の影響が大きい。加えて、我々生物は無数の腸管内バクテリアと共に進化してきたため、哺乳養育環境の影響が強いことは仔の発達だけでなく、腸内細菌叢に対しても影響を及ぼしたことが示唆される。本研究は哺乳養育環境の変化が仔の腸内細菌叢形成、脳発達にどのように影響したかを明らかにすることで、哺乳類が独自にもつ効率的な発達様式を明らかにすることを目的とする。 哺乳養育環境の一つである母乳と, 子の腸内細菌叢形成・脳発達, 更には母乳による腸内細菌叢形成が脳発達に与える影響についても着目し, 研究を実施してきた。令和3年度については生後10日目の仔マウスにおいて母乳成分の違いが海馬の髄鞘形成に関与するMbp, Plp1遺伝子の発現を低下させたことがわかった。更にはその個体からの糞便を移植された無菌マウスにおいてもMbp, Plp1遺伝子の発現が低下していた。糞便移植後の無菌マウスから採取した糞便を用いた腸内細菌叢の機能解析, 代謝産物の解析を実施することで, 母乳中成分の変化によって腸内細菌叢が産生する代謝産物に変動がおきることを見出した。さらにこれら変動がみられた代謝産物から髄鞘形成に関与しうる代謝産物を乳仔期マウスに投与することで発見した。加えて, この代謝産物を培養オリゴデンドロサイトに処理することで, Mbp, Plp1といった遺伝子発現を抑制させることを見出した。これらの結果から、母乳―腸内細菌叢形成―脳発達の存在が示唆された。
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