アゲハチョウ科昆虫において、Cytochrome P450 (CYP)は宿主植物由来成分を代謝する酵素の一種であり、代謝の中心となる器官である中腸においてCYP mRNAが高発現している。本研究では、キアゲハCYPに着目し、宿主植物由来成分の代謝について検討した。 RNA-Seq解析により、セリ科植物の種類を変えて与えたキアゲハ幼虫の中腸におけるCYP mRNAの発現を比較した結果、アシタバを与えたキアゲハにおいて特異的に発現している2種類のCYPを解明した。アシタバにはカルコン類が含まれることから、本年度は、キアゲハ幼虫にアシタバ由来カルコンを過剰に与え、中腸におけるこれらCYPの発現変化を解析したが、実施した条件では発現変化を確認することはできなかった。また、ミカン科植物を宿主とするアゲハチョウ科昆虫とキアゲハのCYPのアミノ酸配列を比較し、基質認識部位のアミノ酸残基が異なることが明らかとなった。このことから、アゲハチョウ科昆虫の種によって、CYPの基質や代謝産物が異なることが示唆された。 残念ながら、本研究では、アシタバを与えたキアゲハ幼虫糞に含まれるヒト大腸がん由来細胞株HCT116の生存を特異的に抑制する成分を同定することはできなかったが、この成分はHCT116に対して増殖制御作用を示すことが解明された。さらに、この成分以外にも、キアゲハ幼虫糞にはヒトがん細胞株の生存を抑制する成分が含まれることが解明された。また、他のアゲハチョウ科昆虫の代謝機能もバイオプロセスとして利用できる可能性があると示唆された。アゲハチョウ科昆虫のCYPと基質のドッキングシミュレーションを活用すれば、特定の化合物がCYPにより代謝されるか、また、どのような成分が生成されるかを予測することが可能になる。これにより、アゲハチョウ科昆虫のCYPがバイオプロセスとして利用されることが期待される。
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