研究課題/領域番号 |
21J21876
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
暮井 達己 東京農工大学, 大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 階層構造 / セルロース / 重合度 / ミクロフィブリルの配向性 |
研究実績の概要 |
木質バイオマスの階層構造、つまり組織・細胞、細胞壁、微細構造に至るまでの一連の構造はナノオーダーのセルロース繊維を緻密に組み上げ、その周囲をヘミセルロースやリグニンといったマトリックス成分で固めて形成されている。したがって、階層構造の骨格はそこに内在するセルロース繊維の集積体と見なせる。セルロースを単離する際、従来の方法ではこの骨格を保持するのは困難であり、また人工的に再構築することも簡単には実現できない。そこで本研究では、木質バイオマスから階層構造を保持しながら選択的にマトリックス成分を除去した新規セルロース材料の開発を試みた。その上で、木質バイオマスの構造を活かすことで得られる本材料の優位性を物性試験と絡めて調査した。 上記の計画を遂行するため、スギ(Cryptomeria japonica)材から高度に制御されたセルロース集積体を取り出し、熱プレスによるシート材料化を実施した。そして、本材料を構成するセルロース繊維の長さ(その指標として重合度を採用)や配向性といったミクロの構造が材全体の引張特性に及ぼす影響を評価した。その結果、セルロース繊維を配向させることは引張弾性率(材料の変形しにくさ)や引張強さの劇的な向上につながり、また化学処理によるセルロース繊維の断片化を抑制することは引張強さの発現に必要不可欠であると示された。セルロース繊維の長さや配向の力学特性への関与はこれまで漠然と想定されてきたが、それを明確なデータで裏付けた点は意義深い。さらに、そうした構造特性を活かせる材料の設計に成功したことも本研究の独自性を示す上で重要である。 以上の研究成果に関して、国内学会での発表および国際雑誌における報告を行い、積極的な情報発信に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はコロナ禍のため研究活動や研究成果発信において様々な制約があったものの、おおむね当初の計画通りに進めることができた。特に、本研究で開発した新規セルロース材料に関して、狙いとしていた配向性や長さの観点からその優位性を示せたことは順調な進展を物語るにふさわしいといえる。また、研究成果が国際雑誌に受理された点も上記の区分を選択した理由の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでは配向性や長さといったミクロな視点で階層構造を捉えてきた。本年度は組織・細胞構造といったマクロな視点から評価すべく、セルロース繊維の集積体である本材料に加え、その比較試料として多糖類を除去した木材の調製を試みる。 先にも述べた通り木質細胞壁の骨格となるのはセルロース繊維であるが、その型枠に沿ってマトリックス成分が存在するならば、セルロースを除去しても3次元的な構造が残ると考えられる。そこで、脱多糖木材も新たに準備し、木質バイオマスの階層構造が有する力学特性をより多角的に評価する。すなわち、階層構造を活かした材料がセルロースからなる場合とそうでない場合を比較していく。 脱多糖の方法は前年度の終盤から選定を始め、単純な酸加水分解を採用することにした。酸加水分解はバイオリファイナリーにおいてセルロースを分解し、新たな化合物に変換するための手法の1つである。この際に生じるリグニン由来の残渣の利活用については検討の余地があり、本実験ではそこに着目した。これは、木質バイオマスを社会でより一層活用させるための研究でありたいという基本理念に則るものである。すなわち、単なる比較試料にとどまらせず、それ自体に意味を持たせられる手法を選択した。 以上の方針に従って実験を進め、得られた成果は学会あるいは国際雑誌にて報告する予定である。
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