研究課題/領域番号 |
22J13463
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
前島 敦 東京農工大学, 大学院工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | プロドラッグ抗体 / 二重特異性抗体 / マスキングペプチド / がん細胞傷害活性 / がん細胞 / T細胞 |
研究実績の概要 |
がん細胞とT細胞を標的とする二重特異性がん治療抗体Ex3は、両細胞間の強制的な架橋による、強力な抗がん活性の誘導を作用機序としている。しかし、がん非特異的なT細胞の活性化による副作用が課題となっている。そこで本研究では、Ex3のT細胞結合ドメインに、がんで発現が亢進しているマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の認識配列を介して結合阻害ペプチドを融合することにより、副作用の低減を目指した。がん組織近傍に送達後、MMPによる消化により結合阻害ペプチドが外れることで、がん特異的に抗がん活性が回復することが期待される。また、結合阻害ペプチドとして、鎖長を調整することで立体障害による阻害が期待される、PASを用いた。これにより、抗体の配列に依存しない、より汎用的な設計が可能になると期待される。 まず、PASの結合阻害ペプチドとしての有用性を明らかにするために、T細胞結合ドメインのみにPASを融合して、標的細胞への結合能を評価した。PASには、反復回数の異なるP40及びP100を用いた。結果、PASの分子量に依存した結合活性の低下、及びMMP認識配列の切断による結合活性の回復が確認できた。 続いて、Ex3-FcにMMPの認識配列を介してP40およびP100を融合した分子を設計した。フローサイトメトリーで結合能を評価した結果、T細胞に対してのみPASの分子量に依存した結合阻害が確認され、コラゲナーゼ消化後には結合能が完全に回復した。また、がん細胞に対してはPASによる結合阻害は見られなかった。さらに、 in vitroで抗がん活性試験を行ったところ、PASの分子量に依存した抗がん活性の低下、及びMMP認識配列の切断による抗がん活性の回復が確認できた。また、T細胞活性化試験においても同様の結果が得られたことから、本抗体が全身でのT細胞の活性化を伴う副作用を低減できると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、昨年度にin vitro腫瘍モデルの最適なコラーゲン密度および包含細胞数を明らかにし、in vitroでの組織浸透性の評価手法を確立する予定であった。しかし、コラーゲンの足場を用いた細胞の三次元培養が想像以上に困難であり、達成することができなかった、現在は、より簡便に三次元培養が可能な球状細胞塊であるスフェロイドを用いて評価を行っている。 一方で、昨年度までに、PASによる抗体のプロドラッグ化に関する研究を進めることができた。ここでは、PASの結合阻害ペプチドとしての有用性を明らかにするために、T細胞結合ドメインのみにPASを融合して、標的細胞への結合能を評価した。PASには、反復回数の異なる40アミノ酸残基のP40、及び100アミノ酸残基のP100を用いた。結果、PASの分子量に依存した結合活性の低下、及びMMP認識配列の切断による結合活性の回復が確認できた。続いて、Ex3-FcにMMPの認識配列を介してP40およびP100を融合した分子を設計し、in vitroで抗がん活性を評価したところ、PASの分子量に依存した抗がん活性の低下、及びMMP認識配列の切断による抗がん活性の回復が確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度では、MMPの認識配列を組込むことで、高分子量型と低分子量型の長所のみを併せ持ち、かつがん非特異的な細胞傷害活性を誘導しない新奇二重特異性がん治療抗体のデザインを行う。設計にあたっては、Ex3の免疫細胞結合ドメインにMMPの認識配列を介してPAS、およびFc領域を融合する。これにより、正常組織周辺では高分子量ゆえに体内半減期が長く、PASにより細胞傷害活性を示さない。一方で、がん組織周辺ではMMPの切断による低分子量化により組織浸透性が向上し、PASが外れることによりがん特異的な細胞傷害活性が回復することが期待される。まず、in vitro腫瘍モデルを用いた組織浸透性の評価手法の確立を行う。In vitro腫瘍モデルの作製においては、球状細胞塊であるスフェロイドを用いる。さらに、マウスを用いたin vivo評価により、作製した二重特異性がん治療抗体の有効性を明らかにする。
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