研究課題
東京都内の小売店で販売されている食用牛レバーのホルマリン固定パラフィン包埋切片を作製するとともに、一部total RNAを保存した。現在までに115のサンプルを調達した。コンゴレッド染色を行った結果、1サンプルのみ重度の陽性を示した(0.87%)。また、同サンプルは抗牛SAA免疫染色に陽性を示した。小売店の牛レバーより抽出したアミロイド線維(A)とネフローゼ症候群を呈した牛の肝臓より精製したアミロイド線維(B)の2種類のアミロイド線維について、牛AA線維の化学的性状を比較した。SDS-PAGEの結果、いずれも約9.5kDa領域に単一のバンド形成が認められた。質量分析の結果、いずれの線維においても成熟牛SAAのN末端領域2/3の配列が検出された。mRNAを用いたRT-PCRおよびシーケンシングの結果、線維A,BおよびAAアミロイドーシス陰性牛との間でSAAのORF内に変異は認められなかった。牛AAのマウスにおける伝播モデルの作製のため、同事象を実証した先行研究と同一の条件でモデル作製を試みた。具体的には、Slc:ICRマウスに対して線維Aまたは線維Bを含む肝臓ホモジネートを経口投与または腹腔内投与を行い、炎症刺激物質の皮下投与を行った。しかし、いずれの場合においても先行研究と異なりAAアミロイドーシスの伝播は生じなかった。次いで、肝臓ホモジネートの代替として、より純度の高い肝臓のアミロイド抽出物を用いて伝播実験を行った結果、ホモジネート投与時と同様に伝播はみられなかった。また、牛AAが腸管のパイエル板より吸収されると仮定し、パイエル板を含む腸管片における牛AAの吸収性を確認した所、牛AA線維の吸収像はみられなかった。線維Aは先行研究においてマウスへの異種間伝播能が知られているため、伝播がみられなかった原因として、環境要因やマウスにおける内因性の要因の差が考えられた。
3: やや遅れている
本研究では、牛AAアミロイドのマウスにおける伝播メカニズムを明らかにすることを目的とし、まずSlc:ICRマウスを用いてAAアミロイドーシスの牛-マウスの異種間伝播モデルの作製を試みた。しかし、これまで複数の先行研究において実証されているAAアミロイドーシスの異種間経口伝播は認められなかった。また、牛AAアミロイド線維を腹腔内伝播した場合においても同様に個体間伝播は認められなかった。パイエル板における牛AAの吸収試験では、牛AAの吸収像は認められなかった。実験で用いた2種類の線維のうち1種類(線維A)は、先行研究においてマウスに対する異種間伝播能が示されていた。マウスの系統による異種間伝播能の差を調べるため、Slc:ICRと同様にAAアミロイドーシス伝播研究においてしばしば使用されるC57BL/6マウスに対してAAを投与したところ、同様に伝播は生じなかった。以上のことから、伝播が生じない原因として牛アミロイド線維の伝播能の減弱が考えられた。伝播能の担保された牛AA線維が得られていない点から、本年度ではマウスにおける病態機序解析に至らなかった。一方で、マウスにおける牛AA伝播時の体内動態に関する貴重な知見が得られた。AAアミロイドーシスの伝播における脾臓の役割を理解することを目的として、Slc:ICRマウスの静脈内、腹腔内、肝臓内、脾臓内、腎臓内、胃壁内、パイエル板内にマウスAA抽出物を投与して伝播を誘発し、病態の比較を試みた。結果、マウスAAを打った各臓器では、投与臓器で最も重度のアミロイド沈着がみられた。また、肝臓、脾臓、腎臓に投与した場合は、静脈内や腹腔内に投与した場合と比較してより重度のアミロイド沈着がみられた。このことから、AAの沈着が生じるためには、臓器が一定量の投与AAに曝露する必要があり、AAの産生能が脾臓に限らず全ての臓器に備わっていることを示唆している。
これまでの結果を受け、引き続き市販の牛レバーのスクリーニングを行うとともに、他の研究機関よりAAアミロイドーシス罹患牛由来の肝臓を調達し、伝播能の担保された牛AA線維の調達を行う。また、牛AAの異種間伝播が生じる・生じない要因は環境要因など、考えるべき点が多いため、考えられうる要因について、一つずつ検討していく予定である。今後の実験方策としては「アミロイド線維の伝播能を形作るものは何か」にスポットを当てて、マウス、牛を含む各種動物のAA線維および同種間(マウス間)経口伝播モデルを用いて研究を進めていく予定である。アミロイドが経口伝播する際はリンパ系を介した移行が疑われているものの、その代謝経路と脾臓との関連は不明である。そこで、同種間経口伝播モデルマウスおよび脾臓摘出術等のアプローチを用いて、経口伝播時の外因性AAの代謝経路を検索する。研究の経過に応じて、AAアミロイドーシス発症のためのトランスジェニックマウスの作製を考慮に入れる。また、上述のマウスを用いた実験系と並行して、アミロイド線維に着目した伝播リスク因子の検索を行う。同線維の比較構造解析(CDスペクトル、X線回折による構造予測)ないし化学的解析を行い、伝播に寄与・影響する可能性のあるリスク因子を明らかにしていく予定である。
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