研究課題/領域番号 |
21J00498
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
山口 遥子 法政大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 人形劇 / ドイツ / 日本 / 演劇史 / 美術史 / 芸術学 |
研究実績の概要 |
19世紀末から20世紀初頭にかけての日本とドイツにおける人形劇のモダニズムについて調査を進めた。20世紀初め、日本での人形浄瑠璃人気の翳りとは対照的に、同じ頃ドイツにおける人形劇は旅回りの民俗劇から固定劇場を持つ尊敬すべき舞台芸術へと変貌を遂げつつあった。「ミュンヘン芸術家人形劇場」がその代表格で、イグナチオ・タシュナーやヨゼフ・ヴァッケルレ、オラフ・ガルブランソン、ユリウス・ディーツなど当時のミュンヘン美術界を代表する美術家がその活動に参画したことで、新たな観客層を得たと共に、ドイツにおける人形劇の水準を押し上げた。その名声は日本にまで届き、日本の多くの美術家たちもまた新しい西洋風人形劇を実践した。彼らはドイツにおける美術家と人形劇の協力関係を知ったことで、人形について独自のビジョンを持つ美術家の独創性を発揮できるような、新しい芸術モデルとしての人形劇の可能性を着想したと考えられる。 本年はとりわけ ドイツにおける芸術的人形劇が開花した都市ミュンヘンに着目し、19世紀後半から20世紀初頭にかけてその地で人形劇が同時代の美術界と実際いかに交流していたのかを調べた。本年度実施した二ヶ月間の在外研究では、当時の公演について新聞や雑誌に掲載された批評記事、および劇団や博物館に保管されている劇団と美術家の間に交わされた未公開書簡を収集し、当時人形劇の可能性に注目したドイツの美術家たちがどれほど存在し、それぞれが人形のデザイン、彫刻、背景美術、装飾美術、小物、劇場美術、宣伝美術等々の作成を実際どの程度行い、それが観客や評論家にどのように受け止められたのかを調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年2月から3月に行った在外研究では、ミュンヘン中央美術史研究所、ドイツ演劇博物館、ミュンヘン博物館の三箇所で貴重な資料群を多く集めることができた。とりわけ、ミュンヘン博物館では芸術的人形劇の団体と美術家の間に交わされた未公開書簡を多く保管しており、現物に当たって調査することができた。
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今後の研究の推進方策 |
1900年代から20年代のドイツ芸術人形劇における美術家の関与の実態については調査することができたが、彼らが人形劇という表現形式をどのように捉えていたのか、人形劇ならではの価値をどこに見出していたのか、こうした問いを解き明かすような彼らの人形劇観が示された資料がまだあまり見付かっていない。人形劇の形態がそれぞれ大きく異なるように、彼らが人形劇に託した願いもそれぞれ異なっていたはずである。今回の在外研究では人形や書簡など貴重な資料を多く見ることができたが、時間が足らず、背景美術や装飾美術、広告美術については調査が十分できなかった。今後は、今回収集した資料を元に分析や考察を進めるとともに、当時の人形劇にかかわる美術資料や人形劇をめぐる言説をより広く調査し、当時の芸術家が人形劇という新たな芸術形式に見出したものは何だったのか、より明らかにしていきたい。
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