研究課題/領域番号 |
21J00498
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
山口 遥子 東京藝術大学, 美術学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 人形劇 / ドイツ / 日本 / 演劇史 / 芸術学 |
研究実績の概要 |
昨年に引き続き、19世紀末から20世紀初頭のドイツ人形劇の「芸術化」と、それが日本人形劇に与えた影響について研究を行った。昨年は特に1900-1920年代のミュンヘン芸術家人形劇場における美術家の関与について調査したが、今年は、こうしたヨーロッパ人形劇の芸術化の流れに大きな影響を受けて1920年代に生じた日本の西洋風人形劇の最初期の状況を明らかにすることを目的に調査を進めた。1900年代から1920年代まで30 年間ほどの人形劇に関わる演劇・美術・見世物関連資料を渉猟し、なぜこの時期に新しい人形劇が生まれたのか、具体的にどのような要素が「西洋風」の人形劇の創作に影響を与えたのか、そして日本における東西の人形劇観がどのように変化してきたのか、という三つの問題を考察し、その結果を学会論文「日本の『人形劇』誕生前夜 ドイツの芸術的人形劇との関わりを中心に」にまとめた。また2022年12月にはアメリカの中心的人形劇研究機関であるコネティカット大学からの依頼で19世紀末から20世紀初頭の日本における西洋人形劇観の変遷についてのオンラインレクチャーを行った。これを機にアメリカの人形劇研究者たちと親交を深めたことで、2023年2月から3月にかけてコネティカット大学バラードインスティテュート、シカゴ人形劇祭、ニューヨークのいくつかの人形劇機関を訪問する機会を得、20世紀におけるアジア人形劇と西洋人形劇の交流に関する調査と意見交換を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年は国内資料を中心に調査を進め、その成果を論文として公開することができた。また、研究開始時には予想していなかったアメリカの比較人形劇研究者たちとの繋がりができたことも、今後の研究の進展に役立つと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年・一昨年にかけて、日本の「人形劇」史上初めての上演とされる『アグラヴェーヌとセリセット』(1923年)以前の約30年間にわたる国内の人形劇関係資料を包括的に調査した。この調査を通じて、なぜこの時期に日本で新たな人形劇が成立したのか、また西洋人形劇がどのように日本で受容され、それが文楽などの伝統的な日本人形芝居の評価にどのような影響を与えたのかを考察してきた。これまでの調査で明らかになったのは、20世紀初頭にドイツをはじめとするヨーロッパ各地で広まった「芸術的人形劇」という反リアリズム演劇の潮流が、日本の「人形劇」誕生に大きな影響を与えていたということである。20世紀の日本の人形劇は、新劇と一部の理念や人脈を共有している一方で、新劇とは異なる方向性を追究していた。今後は、これまでの研究を基に、日本の「人形劇」史の再構築を目指したい。明治末期に生まれた新劇とその後の日本演劇の展開については多くの研究があるが、大正10年代に生じた伝統人形芝居(文楽や江戸糸あやつりなど)に対する「人形劇」とその後の展開に関する研究は不足している。今後の研究を通じて、日本の「人形劇」が、海外人形劇からの影響の下、伝統人形芝居との断絶/接続をもっていかに生起し発展してきたかを、初めて明らかにしたいと考えている。
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