近年の現代人形劇の現状を把握していくにつれ、1920年代から現在まで、およそ100年間にわたる日本の現代人形劇の主流をなしてきた人型・動物型の人形劇は世界的にみれば少数派であり、むしろレディメイドのオブジェクトを用いる「オブジェクト・シアター」が大勢を占めつつあることが分かった。またオブジェクト・シアターは、従来人形劇に見られるような操る/操られるの関係ではなく、物と人の新しい対等な関係を呈示しているという点で、ブルーノ・ラトゥールやジェーン・ベネットなど、現代を代表する思想的潮流の一つであるニューマテリアリズムとも響き合っていると考えられる。そこで今年度は、現代オブジェクト・シアターの諸実践において、人と物の新たな関係性の表現がいかに達成されているかという点を中心に研究を進めてきた。オブジェクト・シアターは最近始まったわけではなく、従来の人形劇に対するアンチテーゼとして1980年代に広まった様式である。誕生から50年を経てオブジェクト・シアターも変化している。主体としての人間が客体としての物を「操る」、あるいは「魂を与える(アニメートする)」という非対称的な関係を見直そうという動きとして捉えられる。無生物を人間の力で操る・動かすのではなく、むしろ物それ自身の動きに任せる、あるいは人間はその物の内在的な動きや性質を引き出すような手助けをするに留める。こうした物と人とのより対等な関係性の探究が、オブジェクト・シアターの新たな主題となりつつあると思われる。この点についてより考察を深めるために、ニューマテリアリズムと芸術実践あるいは芸術教育の交叉を主題とした論文集を現在準備中である。
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