研究課題/領域番号 |
21J00349
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
猪崎 優喜 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
キーワード | トポロジカル物質 / ランダウ準位 / スピン軌道結合 / Te / k.p理論 / 量子振動 / トポロジカル相転移 / ディラック電子系 |
研究実績の概要 |
行列力学を用いた非摂動法による多バンド模型のランダウ準位計算では解析計算が困難であり,より簡易的な模型を用いた解析計算による補助を必要としている.そこで本年度は,トポロジカル半金属物質のランダウ準位の解析に取り組んだ.大きく分けて以下の3つの内容に取り組んだ. (1)Teの既存模型のままでは磁場中の解析計算は困難であった.そこで行列力学を用いた非摂動法によりランダウ準位の計算を行い,特徴的なランダウ準位の構造を保つために必要最小限のパラメータを調査した.必要最小限のパラメータのみ用いた模型で,弱磁場極限での量子振動位相の解析計算を行った.この結果を踏まえ,多バンド模型の結果と既存の実験結果との比較を行い,今まで困難であった実験結果への解釈を与えた. (2)トポロジカル半金属物質の最小模型で (1)と同様に弱磁場極限における解析計算を行い,量子振動位相の解析解を得た.トポロジカル半金属物質はその特異な電子構造から,量子振動で異なる由来をもつピークの混在が予想される.量子振動のピークをその起源毎に整理することにより,先行研究では定義できなかった領域で,量子振動位相の変化を明らかにした. (3)トポロジカル半金属物質の代表物質であるCd3As2のランダウ準位計算をおこなった.トポロジカル半金属物質では最小模型のような理想的な場合を元に議論が行われてきた.行列力学を用いた非摂動法により実際の物質を意識した計算が可能となった.そこで,既存の多バンド模型のランダウ準位および量子振動の計算を行った.また,(2)と同様に量子振動のピークを起源毎に解析し,スピン軌道結合効果の強さを表す指標であるスピン分裂変数の特徴的なトポロジカル半金属物質のバンド構造に由来する変化を明らかにした.この結果と(2)の最小模型での結果を比較した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の結果により,スピン軌道結合効果を含んだ応用性の高い理論基盤が出来つつある.本年度は量子振動位相の解析を行った.これらの計算はトポロジカル半金属物質のみでなく多くの物質に応用可能な理論であり,実際複数の物質での計算に成功している.この一連の手法は簡易模型ではアプローチできなかったフェルミ面付近に多くのバンドを持つ物質への応用が期待できる. また,当初予定になかった非共型空間群に属する物質での分裂したランダウ準位をもつ解析計算可能な簡易的模型の作成に成功し,分裂した量子振動の性質を確認すること出来た. 以上のことから「おおむね順調に進展している」と判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度まででトポロジカル半金属物質のランダウ準位計算についてはほぼ終了した.来年度はこれらの内容を取りまとめ,学会発表や論文執筆作業を進める.また,本年度までの研究で,トポロジカル半金属物質に限らず応用性の高い理論基盤ができつつある.この理論計算手法を応用し,分野にこだわらず様々な物質の計算を進め,スピン分裂変数の計算によりスピン軌道結合効果の普遍的な性質を調べる.
|